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東京学芸大学附属国際中等教育学校で社会貢献教育を実践する藤木正史教諭。その取り組みを紐解く特集「10代からの社会貢献」の初回は、高校生の生徒を前のめりにさせる授業「国際協力と社会貢献」の巧みな仕掛けを紹介した。今回は、その授業のカリキュラムを初めて公開。藤木教諭自身が各フェーズでの留意点や工夫なども踏まえて、解説していく。

▷第1回:社会貢献に向かう中高生、藤木教諭のすごい授業

 

「難病を患う子どもだけでなく、彼らを支えるお父さん、お母さん、兄弟、姉妹といった家族全員が心から笑いあえる時間をつくりたい。そして彼らを孤立させない社会を実現したいのです」——。

 

 15万円を寄付してくれた生徒たちにどうしても直接お礼を言いたいと、公益社団法人「難病の子どもとその家族へ夢を」の大住力代表が、2017年2月に来校された時のこと。活動に対する思い、社会のために高校生ができることなどを熱く語っていただいた。生徒たちはじっと耳を傾け、中には大住代表の思いに大粒の涙を流す者もいた。

 

 その教室の状況を目の当たりにしたとき、「この授業を立ち上げて本当に良かった」と、心からそう思えた。生徒たちの1年間の学びの結実と、その想いに応えてくれる支援組織。教室を越えた、生徒と社会のつながりを実感できた瞬間だった。

 

 筆者は、東京都練馬区にある東京学芸大学附属国際中等教育学校(TGUISS)に、09年度から教諭として勤務している。教科は社会科だが、15年度から「国際協力と社会貢献」という選択授業も受け持っている。(関連記事「社会貢献に向かう中高生、藤木教諭のすごい授業」)

 

2015年度にスタートした「国際協力と社会貢献」の授業風景

 この授業は、学習指導要領で定められている教科以外に学校が独自で設定できる「学校設定教科」。2単位の授業だが、2〜3月は授業がない6年生(高校3年)が対象のため、年間で55コマ前後(1コマ50分)となっている。

 

 また、この授業とは別に、09年から本学のソーシャルアクションチーム(ボランティア部)の顧問も務めている。社会貢献の授業も、ボランティア部も、学生時代から非営利団体(NPO)などで活動していた筆者が創設に関わった。

 

研究者人生から教職員への転機

 

 遡ること16年前、2004年のこと。立教大学大学院に進学した筆者は、日本史の研究者を目指して大学図書館にこもり、日夜、調査や研究会などに勤しんでいた。

 

 ある時、知人に誘われ、イスラエル・パレスチナの子どもと、日本の子どもの交流プログラムを運営するNPOに携わる機会を得た。

 

 研究という“個”になりがちな環境にあった筆者にとって、さまざまな世代や立場の人が集まって何かを成し遂げようとするNPOの活動はとても魅力的に映った。「もっと多くの人を巻き込み、社会を良くしていきたい」という気持ちが湧き出した。そして、気がつけば、ほぼ毎日、NPOの事務局でイベントの計画や助成金申請の書類作成をするなど、組織運営にのめり込んでいた。

 

 筆者が中学3年生の時、阪神・淡路大震災が起き、校内で募金活動を実施したいと300人の署名を集め、生徒会に持ち込み、実現につなげた。思い起こせば、これが筆者の社会貢献活動の原体験だったかもしれない。その時に味わった達成感を、NPOの活動でも感じていた。

 

 実は、教員を目指した理由も似ている。大学院1年の秋に桐朋中学校・高等学校で非常勤講師を務めた。そこで生徒に歴史を教える楽しさや喜びを知った。「研究成果をもっと多くの学生に伝えたい」「歴史研究の成果を歴史教育に」という思いが強くなり、日本史の研究者から学校教諭の道へとシフトした。自分の興味関心が高いことやハマったことを、より多くの人に共有したくなるというのは性分なのだろう。

 

 複数校で非常勤講師を勤めた後の09年にTGUISSの教諭となり、歴史と社会貢献、2つの欲求を同時に満たす環境に恵まれた。

 

東京学芸大学附属国際中等教育学校の門。西武池袋線の大泉学園駅に程近い

高校生から社会貢献に触れる機会を

 

 着任初年度、日本史を教えていた筆者は、ボランティア部にも携わることとなった。3年生(中学3年)の生徒から「ボランティア部を作りたい。顧問になってほしい」と持ちかけられたことがきっかけだった。

 

 実のところ最初は断った。ボランティア活動自体を目的とした部活動というものに違和感があったからだ。ボランティアをしたければ、学校の中ではなく、外に出て行ったほうがいい、という考えがあった。

 

 しかし、生徒は諦めなかった。何度も対話を重ねる中で、ボランティアを「やる」ための部活動ではなく、同世代にボランティアを「広める」ための部活動にする、という条件で顧問になることを承諾した。これが今でもボランティア部の基本方針になっている。

 

 しばらくボランティア部のメンバーに社会貢献の楽しさを説いたり、時には一緒にボランティア活動などに参加したりして過ごすうちに、「もっと多くの生徒に、社会貢献活動を通じて得られる楽しさや充実感を伝えたい」という思いが燻り始めた。

 

 筆者はたまたま大学院生時代に社会貢献に触れ、その楽しさや喜びを知った。だが、中高生時代に「接点」があれば、もっと早く傾倒していただろう、という思いも抱いていた。社会貢献というと、意識の高い人たちがやるもので、一般の人には関係ないという風潮が一部にあるが、実際に体験してみれば、そうではないことはすぐに分かる。

 

 日本の子どもや学生は、社会貢献に接する機会が少なすぎる。若いうちから当たり前のように接するべきだ。公教育の場でもできることがあるかもしれない。やるのであれば、一過性で終わらない通年の授業でできないだろうか——。

 

 幸いなことに、当校には学校設定教科があった。15年度にタイミングが訪れ、筆者は社会貢献授業の新設をすかさず提案した。

 

 前例のない授業ではあるが、意外なほどすんなりと受け入れてもらえた。TGUISSは、「国際バカロレア(IB)」の認定校。IB認定校では、「Service・Action」に全生徒が取り組むことが求められており、学校としても社会貢献活動を推進していくという素地があった。

 

授業のノウハウを公開する理由

 

 かくして、15年4月から、6年生(高校3年)の生徒を対象に、「国際協力と社会貢献」という選択授業がスタート。5年間で延べ80人の生徒が受講した。ゲストとしてNPOなど延べ50組織・団体にも来校いただき、教室で講演や対話をしてもらった。

 

 この授業を“修了”した生徒の中から、大学生になって途上国のボランティア活動に参加したり、地方創生に関わるNPOでインターンシップをしたりする者が出てきた。教え子たちの活躍を耳にするのは教師冥利に尽きる。この5年間で一定の成果は得られたのではないか。

 

 しかし、「所詮は80人」という見方もあるだろう。文部科学省によると18年度の高校生徒数は342万人もいる。この社会貢献授業の取り組みが、全国津々浦々の中学校・高校に広まっていけば、世の中にインパクトを与えることになるかもしれないと考えている。

 

 それは、被支援者や支援活動のためだけではなく、生徒自身のために必要なことだ。

 

 社会貢献を通して、地域や人に関わることが、生徒にとって人生の大きな糧となる。寄付やボランティア活動に参加することで、自分が社会や地域のつながりの中で生きていることを実感でき、新たな喜びを得て、キャリアの形成や選択に役立てることもできるはず。何より筆者自身がそうだった。

 

 その結果として、一人でも多くの生徒が社会貢献活動に関わるようになり、支援が行き届く人が一人でも増えれば、なお良い。

 

 「優秀な生徒が多いTGUISSだからできるのだろう」という指摘も受けるが、そんなことはない。どんな学校でも社会貢献の授業はできると思う。なぜなら、世の中の課題に気付き、生徒たちが「何かできるかな」と思う最初のステップを提供することが、この授業にとって最も大切な要素だからだ。そこに学力やIB認定校といった要素は関係しない。

 

 ただし、各学校で社会貢献授業を実現するためには、課題もあるだろう。

 

 「国際協力と社会貢献」はあくまで選択授業の一つ。「英語」や「日本史」といった通常教科・科目ではないため、教科書やカリキュラムというものが存在しない。社会貢献の授業では、何を伝えるべきか、何を考えてもらうべきなのか、何をテーマとして取り上げたらいいのか、などすべてが決まっているわけではない。さらに、学生時代に社会貢献活動に参加していた、という経験を持つ教員もそれほど多くない。

 

 だからこそ今回、筆者は筆を執った。まずは、社会貢献授業を広める上での「2大課題」の前者に寄与できたらと思い、あらためてカリキュラムをまとめた次第である。後者、すなわち人手の課題解決については、本特集の最後の方で触れる予定だ。

 

 実は、筆者の授業カリキュラムというのは、ほとんどが自分の頭の中に格納されていた。どこかにシェア(共有)する機会もなく、手探りで改善を重ねてきたこともあり、これまで、詳細かつ体系化されたカリキュラムは存在しなかった。

 

 全国の教員の方々が社会貢献授業を展開するにあたり、それぞれのやり方、方法論、カリキュラムというものが生まれるだろう。しかし、ゼロから作るのは相当に骨が折れるということを身を持って知っている。オリジナルのカリキュラムを作るとしても、そのベースとなるものがあったほうが、格段に効率は良い。

 

 であれば、授業開始から5年が経ち、ある程度、内容も確立してきたこともあり、ここでいったん、自分のカリキュラムを整理してまとめ、それを全国の教員の方に向けてシェアする機会を設けさせていただこうと思い至った。

 

 志を共にする、あるいは共感くださる多くの教員に、「基本プラン」や「教師側の姿勢」としてご活用いただければ幸いである。前置きが長くなってしまったが、ここから本題の「カリキュラム解説」に移ろう。

 

(1)授業の目標(ゴール) ― 社会貢献を自分ごとに

 

 「国際協力と社会貢献」授業のカリキュラムは、大きく5つの要素から構成される。

 

(1)授業の目標(ゴール)
(2)授業の指針(指導スタイル)
(3)教材や題材
(4)年度計画と指導の留意点
(5)生徒の評価

 

 何よりも最初に設定すべきは、「授業の目標(ゴール)」である。

 

 先述したように、まずは「社会とのつながりを実感する」ことが、授業の大きな目標となる。社会や地域とのつながりの中で自分が生きていることを実感するというのは、生徒自身の人生を豊かで充実したものにするために必要なことだと考えている。

 

 そのためにも、「社会貢献を自分ごとにさせる」という次の目標が重要になる。この授業は単に机上の学問として、社会貢献の知識を学ぶものではない。後述するが、NPOなどのゲストを呼んだり、生徒自ら社会貢献活動に寄付したりという「接点」を通じ、自分ごととして社会貢献を身近に感じてもらうことに重点を置いている。

 

 結果として、「社会貢献に関わる人材を育成する」ことにもつながっていく。卒業後、ほとんどの生徒は大学へ進学し、社会人になる。その過程のどこかで、一人でも多くの生徒が社会貢献に関わり、困っている人や立場の弱い人の支えになってくれれば幸いである。

 

(2)授業の指針(指導スタイル) ― 全員の意見を「引き出す」

 

 続いて、授業全体の指導スタイルである「授業の指針」を紹介する。

 

 この授業は、教員が生徒の前に立って一方的に話し続けるという、いわゆる講義型の授業ではない。まず、生徒に社会とのつながりを実感してもらい、自分ごとにしてもらうため、生徒全員の意見を「引き出す」ことを最も重視している。

 

 そのために「グループワーク」は欠かせない。5分でも、10分でも、グループあるいはペアで話し合う時間を取れば、全員が授業中に何らかの発言の機会を得ることができる。

 

 たとえクラス全体では自主的に発言できない生徒がいたとしても、グループワークで発言できていれば問題はない。その生徒の意見をグループの代表がクラスにシェアし、クラスの皆に受け入れられれば、その生徒は間接的であっても授業中に発言できたことになり、本質的に授業へ貢献したことになる。

 

 筆者は、グループワークなど生徒同士の対話には過度に介入しないようにしているが、生徒の意見を引き出すため、適切な「声掛け」や「合いの手」を常に意識的に行なっている。

 

 例えば先日、コミュニティ財団について研究した際、生徒たちにとって馴染みのない題材だったため、「自分たちの町にこういう団体があったら良いと思わない?」「自分たちが困ったときに助けてくれる組織かもしれないよね?」など、自分や家族につながる活動だと思ってもらえるような声掛けをし、発言を促した。

 

グループワークの最中は、歩き回りながらタイミングを見計らい、生徒に声掛けをしていく

 声掛けに関して、もう一つ工夫をしている。

 

 授業中に生徒が書いた文章や、グループワークなどで発した言葉をずっと覚えておき、生徒の対話が途切れた際などに、「さっき○○が話していたこれだけどさ」「この前、○○が書いていたけれど」などとタイミング良く水を向けるようにしている。過去の意見を思い出させることで、その生徒自身の新たな意見が飛び出すこともあるからだ。

 

なるべく生徒に「任せる」

 

 次に、自分ごとにしてもらうためには、なるべく生徒に「任せる」ことも大切だと考えている。

 

 教員が授業の進め方などを事細かく決めることはせず、大きなテーマだけを与え、その先どうやって深掘りしていくかという方向性は、グループワークなどを通じた生徒同士の対話で決めてもらっている。「自分たちが授業を作っている」という当事者意識を持ってもらいたいからだ。

 

 授業の進行も生徒に任せている。毎回、生徒を指名し、「ファシリテーター」を務めてもらう。できるだけ全員に経験してほしいため、必要に応じて複数人を選ぶ。ホワイトボードに速記で図も交えてまとめていく「グラフィックレコーダー」役の生徒も一緒につけたりするなどの工夫もしている。

 

授業の進行は毎回、ファシリテーターに指名された生徒が担う

 3つ目の指針として、「接点作り」を工夫することも心がけている。

 

 同じ学習テーマでも、題材の選び方一つで生徒の関心は変化する。今年は何が良いか、今はどんな題材に興味をもってもらえそうか、常に生徒の趣向や関心を注意深く見ておき、臨機応変に最適な題材を選んでいる。

 

 また、支援活動をしているNPOや企業など、年間約10の組織・団体をゲストスピーカーとして教室に招き、リアルに社会貢献活動を感じてもらうようにしている。単なる組織の紹介や、一方通行の講演では、受け身になってしまうため、その場で生徒の疑問に答えてもらう「対話」を重視。その趣旨を事前にゲストに説明し、了承を得ておくことが必要だ。

 

 最後に、他人の意見などを否定せずに「肯定する」ことも指針としている。

 

 違う意見や考え方を持つ生徒は当然いる。「違っても良い」と肯定しなければ、生徒は萎縮し、自主性は損なわれるだろう。そこで、この授業では、「他人を否定しない」「自分ばかり話さない」「人の話を最後まで聞く」というグランドルールを定め、徹底している。

 

 とはいえ、そんな堅苦しいルールを押し付けていても響かない。生徒に目線を合わせ、他人への共感を示す若者用語である「それな!」を拝借し、「それな!を増やそうよ、見つけよう」と伝えている。

 

 加えて、「皆に叩かれてしまうかもしれないけど……」と言いながら話してくれる生徒がいたら、「確かにそういう見方もあるよね」とすぐに声を掛けるようにしている。「この教室では自分がどんな意見を言ってもいいのだ」と、生徒たちは安心感を得て、発言しやすくなる。

 

藤木教諭が実践する3つの指導ポイント

 

(3)教材や題材 ― 生徒が興味を持つ題材を選ぶ

 

 授業について、「教材は何を使っているのか」という質問が多い。社会貢献に関する教科書はないため、「ODA白書」や社会貢献に関する書籍の抜粋、NPOのパンフレットや資料、関連するニュース記事のコピーなどを都度配布し、教材としている。

 

 前述したゲストスピーカーも教材の一つと言えるだろう。社会貢献に従事する実践者との直接対話は、どんな文献よりも大きな学びとなることがある。

 

 研究や分析の対象とする「題材」に関しては、一部を除いて固定化させず、なるべくその年の生徒が興味関心を持ちそうなものを中心に選んでいる。例えば、「クラウドファンディング」「ふるさと納税」など、毎年のように題材を追加、刷新している。

 

 加えて、「ネット検索」は研究や分析の基本。検索すれば、時々刻々と情報が更新されていく“旬な”題材であれば、あるほど、生徒の関心も高まる。今後は、「CSR」や「CSV」、「ソーシャルビジネス」といった題材を検討している。


(4)年度計画と指導の留意点 ― 大きな支援から身近な社会貢献へ

 

 授業の目標や指針が決まったら、いつ、何を、どのように行うのかという年度計画の策定だ。ここが本カリキュラムの肝となる部分であり、体系化する上で最も苦労した点でもある。

 

 詳細は図を見てもらいたいが、この授業の最終的なアウトプットである「NPOへの寄付」を目指した組み立てとなっている。スケジュールや学習の進度に沿って3つのフェーズに区切り、最初のフェーズは、社会貢献や支援組織に関する「基礎学習」としている。

 

 ただし、基礎を学ぶと言っても、座学中心で知識を習得するわけではない。この授業では、基礎知識は生徒各自がインターネットなどで事前に調べて来ることが基本。授業は、他の生徒たちとの対話によって深めていく場である。

 

 そうした前提で、基礎学習フェーズでは、最初に「大きな支援」をテーマに扱う。これは「政府開発援助(ODA)」や、国際協力を担う「非政府組織(NGO)」の活動などを指す。一通り学んだ後に、クラウドファンディングやNPOといった「身近な社会貢献」に移行する。

 

 大きな支援から始める理由は、ODAやNGOという言葉は知っていても実態を知らない生徒が多いからだ。大きな支援は縁遠いものに感じてしまいがちだが、筆者が大学生のときに携わったNPOは国際協力系だったこともあり、決して縁遠いものではないということを知ってもらいたいという思いがある。

 

 加えて、授業の最終ゴールはNPOへの寄付。後半に身近な社会貢献をまとめた方が流れもスムーズという考えから、こうしている。

 

 題材について、どのように教えるのかという疑問があるかもしれない。例えばODAの場合、教材として配布した「ODA白書」の一部分をじっくりと各自で読み込んでもらい、次に、各自が気になったキーワードをグループでシェアしてもらう。

 

 それを今度はクラス全体でシェア。その後、共通の興味関心や意見を持った生徒同士でまたグループに分かれて深堀りする、という形で進めていく。基本的には年間通してどの題材でも、こうした形で進めていく。すなわち、個人リサーチ、グループワーク、クラス全体での対話。とにかくこれを繰り返すのだ。

 

すべての学びを評価基準作りに生かす

 

 次のフェーズ「組織研究」では、基礎学習のアプローチを交えながら、日本の各種支援組織・団体の役割や存在意義などを具体的に理解していく。日本のNPOやソーシャルセクターを知る、というフェーズだと思ってもらって良い。題材としてNPOなど個別の国内支援組織を取り上げ、時にはゲスト講演にも来てもらう。

 

 ここまでの学習で、世の中にある社会貢献活動全般に対して、ある程度の理解が進むだろう。そして最後のフェーズ「実践」へと入っていく。

 

 実践フェーズは、この授業の1年間の集大成と位置付けられる。まずは、約半年かけて学んだこと、体験したことをすべて、「NPO評価基準」の作成に注ぎ込む。

 

 評価基準とは、その名の通り、NPOの活動を評価するものさし。通常であればNPOに精通した専門家が行うものだが、高校生の目線で独自に作成するという意欲的な取り組みだ。最終的には、クラスで一つの評価基準をまとめ上げる。それを活用し、自分たちが寄付をするNPOを選ぶ、というのが実践フェーズのメインとなる。

 

 評価基準を作る過程でも基本は、個人リサーチ、グループワーク、全体対話というフォーマットは変わらない。ただし、このサイクルを複数回、実施する。今年度はコロナ禍の影響もあって3回だったが、例年は5、6回繰り返し、評価基準をブラッシュアップしている。

 

 クラス全体の意見を統合するのは非常に難しく、全員が100%合意する評価基準ができるとは限らない。けれども、少しでも合意に近づくよう、時間の許す限り、何度でも対話を重ねることを心がけている。

 

グループワークやクラス全体で何度も対話を繰り返す

 また、生徒だけで考えると、どうしても煮詰まってしまったり、考え方が偏ってしまったりする。例えば、NPOの継続年数や人員数といった「組織」の評価に目が行き、どんな成果を出しているのかといった「事業」の評価は疎かになりがちだ。

 

 そこで例年、非営利組織評価センターの山田泰久氏を講師に招き、プロの助言を途中で挟むようにしている。そうすることでバランスの取れた評価基準にチューニングされていく。

 

生徒たち自身で寄付先を決める

 

 評価基準が完成したら、いよいよ最終段階。クラスの寄付先とするNPOを3団体から一つ選ぶ。

 

 まず、3団体それぞれの“応援隊”として、人数が平均になるようグループ分けをする。応援隊はそれぞれが担当するNPOについてリサーチを深める。そして、3団体それぞれのゲスト講義を経て、クラス統一の評価基準に照らして評価。アピールポイントを探っていく。

 

 その後、いかに自分たちの評価基準に合致しているかをアピールする応援隊ごとのプレゼンテーション、生徒全員による対話を経て、最後は生徒一人ひとりが最も推す団体に投票。多数決で寄付先を決定する。

 

 ちなみに、NPOへの寄付の原資は、生徒自らクラウドファンディングで募ることもあれば、授業に賛同した企業に提供いただく場合もある。金額は、15万円程度。寄付を受けた組織にとって少なくない額であると同時に、高校生にとっては大きな金額で責任感が生じる額がこのくらいだと考えている。

 

 実践フェーズにおいて今年度、新たにチャレンジしたことがある。寄付先候補となるNPO3団体の選定だ。前年度までは筆者が候補を選んでいたが、今年度は方法を変えた。

 

 まずは、コモンズ投信が主催する「社会起業家フォーラム」にこれまで登壇した約90団体の動画や資料を生徒に見てもらい、それぞれが興味ある団体を選んでもらった。

 

 当然、同じ団体に全員の興味関心が向くことにはならない。生徒があげた団体の中から、活動分野などを鑑み、趣旨を打診して了承を得た3団体を寄付先候補とした。自分たちが選んだ、と意識してもらえるようにという工夫である。

 

 3グループある応援隊のリーダーは、それぞれの団体を選んだ生徒。他の生徒は、アトランダムに所属を決定した。このように手順を変えたことで、最終的な結果にどう影響が出るのか楽しみである。


(5)生徒の評価方法 ― 生徒をエンパワーメントする

 

 一つの決まった答えがあるわけでもなく、他教科・科目のようなペーパーテストもない授業で、果たしてどう生徒を評価しているのか。最後に、簡単に触れておきたい。成績表をつけなければならない教員にとって関心は高いだろう。

 

 筆者は、授業の節目やゲストスピーカーの講義ごとの「ふりかえりレポート(年間約10本)」、学期ごとの「エッセイ(1500字程度の小論文)」などを生徒に提出してもらい、授業での積極性なども加味して、総合的に成績評価をしている。

 

 その際、生徒をエンパワーメントする評価を心がけている。さらに前向きに、社会貢献に対して取り組んでもらいたいからだ。

 

 そのためにも、例えば、小論文については、途中段階のプロットでも見せに来てと伝え、より生徒自身の思いが現われ、より論理的になるようアドバイスをしている。その上で内容の深さ、意見のオリジナリティ、文章が論理的かどうか、などを基に評価している。

 

 以上が、筆者が5年前から実践している社会貢献授業の全貌だ。長くなったが、これでもまだ気になる点があるかもしれない。本稿のコメント欄などを通じて、ぜひお声がけいただきたい。できる限り対話をする機会を設けたいと思う。

 

 今回は方法論を中心にお伝えした。次回からは、授業全体のハイライトである「NPOの評価と寄付」について、今まさに進行している今年度の生徒たちの取り組みを仔細にレポートしていく。

 

 

カリキュラムのPDF版はこちら
以下のリンク先より、東京学芸大学附属国際中等教育学校の選択授業「国際協力と社会貢献」のカリキュラム一覧PDF版をダウンロードできます。(B4サイズ横の印刷に適しています)

 

▷第3回:実践!クラスで寄付、現役高校生が選ぶNPOとは

▷特集:藤木流 10代からの社会貢献

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藤木 正史

藤木 正史 @masa_sgc

1979年生まれ。大学院時代に、イスラエルとパレスチナの子どもたちの信頼醸成プログラムを行うNPO法人の活動に参加。2009年から現職。ソーシャルアクションチーム顧問や、Social Actionコーディネーターとして学校全体の社会貢献活動を支援する。「国際協力と社会貢献」「ファシリテーション実践」などの講義も担当 |藤木正史(ふじき・まさし)

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