地域に価値ある仕事を守らずして、地方創生は実現せず 浅井克俊氏 #3
残すべき事業と、そうではない事業
―― 前回のお話で、「私利私欲や自己実現のための継業でもいい」とありましたが、どうしても人気がある案件、“おいしい”案件に応募が集中すると思います。逆に、取り残されてしまうものもある。そうした後者を救う方策や、生き残らせる道というのは何か考えていますか?
浅井 まず、前提として、すべての事業や仕事が救われる必要はないと思っています。やっぱり、ビジネスとして上手くいかないものを無理やり継いで残すというのは間違っている。無理なものは無理で、ある程度は自然に淘汰されるべきです。
その上で、すごく地域性があって、無くなると地域の生活が立ち行かなくなったり、地域の個性が失われたりするような、地域にとって欠くことのできない事業に関しては、経済合理性がなかったとしても、残すためのチャレンジをすべきだと思っています。
「経営者が若返るだけで回復を見込める事業はたくさんある」
―― その地域にとって、絶対残すべき事業に経済合理性を与えていく。この難問に対する対応策、アイデアは何かあるのでしょうか?
浅井 地域にとって必要だけれど、売上げが落ちている大きな要因として、高齢化が挙げられます。要は、昔できていたことが今できなくなっている。もしくは、いわゆるITやインターネットに対応できないことで、集客できず、事業が回らないということも一定数、あります。
そうした事業の経営者が30歳代などに若返るだけで回復する可能性がある仕事は、たくさんあるはずです。例えば集客にSNSを使うだけで、大きく変わることは当然あり得る。採算がとれないから事業性がないと決めつけずに、ちゃんと検証すべきだと思っています。
次に、地域との連携による立て直しも模索できる。例えば、自治体があいだに入って「地域おこし協力隊制度」を使うことができたら、ある一定期間は人件費が助かり、経営を立て直す猶予が生まれますよね。あまり、公共の資金をあてにするのはよくありませんが、そういった行政が絡むサポートが有効な場合もあります。
―― 地方のスモールビジネス(小規模事業)は、資金面の調達で苦労することも多いです。
浅井 これは今、重要な課題だと思い注視しています。地域にとって残すべき事業だけれども資金面で躓いている。そこの資金供給をどうにかできないかという議論を始めています。
地方のスモールビジネスは、いわゆるエクイティ(株式資本の増加を伴う)投資はほぼ得られない。個人事業主では不可能ですよね。じゃあ、デット(債務)での融資はどうかというと、これも事業性や成長性を見られるので、儲かっていないとすごく難しい。それに、個人が継業して、いきなり借りられるかというと、非常に困難です。
だから、これまでの資金調達とは違うかたちで、地域への貢献度や社会性を評価して、例えば1000万円以下の少額融資や投資ができるような体制を、いろいろな組織のご協力もいただきながら作りたいなと思い、検討しているところです。
「地域のスモールビジネスはソーシャルビジネス」
浅井 さらに、この文脈で言うと、いわゆるソーシャルセクター側の支援やサポートというのもあり得るのではないかと思っています。
というのも、地方のスモールビジネスって、そもそも地域に必要とされていたり、地域の困りごとを解決したりするために生まれて来たはずなんですね。社会課題を解決することを目的とした「ソーシャルビジネス」という言葉がありますが、対象地域の大小の違いはあれど、地域貢献や社会貢献という意味では、やっていることは変わらない。地域版のソーシャルビジネスが、その地域に必要とされるスモールビジネスだと思って見ています。
―― おっしゃる通り、もともと商売って、すべて社会貢献性があるという前提で成立していたところがあると思います。
浅井 昔はそうだったんですよ。それが、経済合理性を過度に優先するようになって、おかしなことになっていっているというだけで。
だから地域のスモールビジネスは、そもそも全部ソーシャルビジネスなんだという考えに立つと、ソーシャルビジネスやNPOなどのソーシャルセクター向けの支援対象に、ある程度、地域のスモールビジネスも含まれるようになっていいのではないかと思っています。
僕の仮説では、そうした支援と、地域のスモールビジネスの承継ってすごくマッチするはずで、今、議論を進めているところです。
地銀・信用金庫の課題も解決?
―― 議論の中身を、少しだけお聞かせください。
浅井 それこそ我々、ココホレジャパンも、SIIF(一般財団法人 社会変革推進財団)さんから出資を受けていて、そういったところからだいぶいろいろな情報を教えてもらい、「ファンドレイジング」や、米国で台頭している「RBF(レベニュー・ベースド・ファイナンス)」のような手法も含めて、勉強しているところです。
―― ニホン継業バンクが、地域のスモールビジネスを対象としたいわゆる「VC(ベンチャーキャピタル)」的な存在になっていくのでしょうか?
浅井 一般的なキャピタルゲインを目的としたVCにはならないと思いますが、今話したようなRBFを活用したオルタナティブ金融のような存在は目指したいと思っています。株式投資や金融貸付ではないところですね。当然、我々だけでできるとは考えていないので、いろいろなところとお話をさせていただいています。
―― 地銀自体が生き残りを模索するなか、最近も山口銀行などを傘下に持つ山口フィナンシャルグループが、十六銀行や愛媛銀行など地銀4行と共同で、事業承継を支援する新たなファンドを立ち上げました。
もうお話し合いがあるかもしれませんが、まさに地銀や信用金庫なんかは、ニホン継業バンクの新たな金融支援の取り組みにマッチするのではないかと思います。地域のスモールビジネスを支えることが、そもそもの地銀の存在意義でもありますので。
浅井 そうなんです。今、地銀さんや信用金庫さんから多くのお問い合わせをいただいています。
事業承継をビジネスとして捉えたとき、「承継機会の創出や発見」がスタートになりますが、ここはどうしてもヒト(行員)に頼らざるを得ないですし、「探す」という作業にものすごくコストがかかるから、地銀さんや信用金庫さんはなかなか手を出しづらい。
もっと地域の事業承継に関わりたい意欲はあっても、ヒトを動かす以上、500万円以下の手数料だとビジネスとして成立させるのが難しい、という状況です。
けれども、事業承継ができないがゆえに自分たちのお客さんがどんどんと消失してしまうと、それはそれで長期的に商売が成り立たなくなってしまう。というジレンマがあるなか、我々の継業バンクというソリューションを通じて、今タッチできていない小規模事業の承継に関与できるチャンスが作れるんじゃないかという話です。
地銀さんや信用金庫さんにとって、事業承継ビジネスのコストを抑えることができれば、手数料のハードルは下がるわけですし、もっと少額単位の融資のチャンスも広がる。さらにはもともとある経営支援などのサポート力も生かせるはずです。
スモールビジネス向けDX支援も計画
―― なるほど。地域の小規模事業者、ニホン継業バンク、地銀・信用金庫と、まさに三方良しのモデルができそうですね。ただ、地銀は小規模事業者への「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」支援となると、必ずしも得意ではないかもしれません。
浅井 「継いで終わり」じゃなく、継いだ後の支援も絶対に必要になってきます。DX支援も、長いタームでは考えています。承継した継ぎ手の方々がその地域で夢を叶えるため、ベンチャー型事業承継を成功させるために、ITリソースも提供していこうというのは、当然、議題にあがって来ます。
ただ、その前に、継業バンクというプラットフォームでより多くの承継機会が生まれないと、DXの機会も生まれない。もっと継ぎ手の募集件数と、実際に承継が成立した件数を増やしていくことが、まず我々に課せられた使命ですね。
―― まだ先の話として議論を進めていきたいのですが、小規模事業者向けのDX支援として、財務会計では「freee」や「マネーフォワード」などのクラウド型サービスが隆盛です。ですが、けっこうお高いですし、ある程度の専門知識も必要なので、ハードルが高く感じる地域の小規模事業者も多いのではないかと思います。
そのほか、Webサイトのホスティングや運用、SNSの運用、メールやチャットでの問い合わせ対応、eコマースへの対応等、多方面での支援が考えられます。これらをすべて一つひとつ契約して設定して、となると、コストが壁となってなかなか進みにくい。
そこで、ニホン継業バンクの出番があるのではないかと思いました。地域のスモールビジネスのDXに必要な機能やサービスすべてをサブスクリプション型のパッケージにして、“継業バンクグループ”の事業者は格安で利用できる、というようなアイデアです。
浅井 そうですね。じつは、継業バンクにたどり着く前、わりとオープンイノベーション的なスモールビジネス向けのプラットフォームを考えていました。そのプラットフォームにおっしゃるようなIT関連のサービスがどんどんと相乗りしてくるイメージですね。
ただ、それだと実現までの壁が高いですし、分かりづらい側面もあるので、引き算をしていった結果、まずはこの継業バンクという、事業承継版空き家バンクのプラットフォームを面で展開していく。それが出来たら、次にオープンイノベーションで必要なIT関連などのサービスをつないでいく、ということができるなと考えています。だいぶ先だと思いますけれど。
―― オープンにした方がいいかどうかは分からないですよね。地域の事業承継に特化してカスタマイズしたプロダクトやサービス、それもあらゆる機能が詰まったものは存在しないので、独自に提供していくほうが手っ取り早く、確実かもしれません。
浅井 なるほど。我々の独自サービスとして開発していく。確かに、事業承継の課題抽出も、我々ならできますからね。
でも、優先順位としては、先ほどもお話しましたが、まずは資金需要というニーズに応えていくことが先です。エクイティ投資は得られない、デットも難しいところに対して、我々が新しいスキームを用意できないかというのが、直近で最も考えている経営支援です。
―― 金融支援をするにしても、ココホレジャパン自体がそれなりの資金調達をしていく必要があります。
浅井 当然、もう次の資金調達を考えています。やっぱり、一番興味があるのは、さっきの継ぎ手に対する投資で、すぐにでもトライアルとしてやりたい。1〜2件は実現できるくらいの規模の資金調達は、早いタイミングで出来たらと考えています。
投資以外に、Webサイトのリニューアルのためのエンジニアも必要ですし、地方の事業承継ってほぼ不動産のやりとりだけという事例が結構あるので、宅建(宅地建物取引士)の資格保有者も入れたいですし、我々のリソース強化のためにも資金調達は必要です。
意気込みは「2025年までに1000自治体」
―― 今後の成長のイメージというか、目標をお聞かせください。
浅井 「2025年までに1000自治体に普及させる」と言っています。けれども、「それは現実的じゃない」といろいろな人に言われています(笑)。
そういう絵を描いても、やっぱりなかなか投資家さんから「うん、いいね」とは言ってもらえないので、中期経営計画では現実的な目標として「2023年までに60自治体」「2025年までに438自治体」と掲げています。
ただ、「2025年までに1000自治体」という僕の心意気は変わりません。
―― その契約対象の自治体には、東京都大田区など都会の自治体も含まれる可能性はあるのでしょうか?
浅井 あります。けれども、今の「どの自治体でも一律50万円」という金額設定は、ちょっと相談させてほしいですね。というのも、人口が5万人以下の自治体を想定してサービスを設計していますので、大規模な自治体からお話があった場合は、金額設定の見直しをさせていただく必要があると思っています。
あと、事業承継問題というのは、地方に限ったことではなく、むしろ都会の方が小規模事業者の数が圧倒的に多いので需要も旺盛だと思いますが、都会は問題として顕在化しづらい面もあります。
都会はヒトも会社も多いので、それだけM&Aビジネスが回ります。自治体が介入する必要性があまり顕在化していませんし、地域内に若者がたくさんいるのでわざわざ外部に継ぎ手を求める必要もない。仮につぶれても、新しいヒトが新しいコトを常に始めているので新陳代謝ができている、というのが都会型の特徴なんですよね。
対して地方は、そもそも地域に若者がいないから、地域外から連れてくる以外に承継しようがない、という根源的な課題があります。なので、継業バンクとしてフォーカスしていくのは、やっぱり地方なんだと思います。
―― 確かに、潜在的な事業承継の案件数は都会のほうが多いのは当然ですが、そっちにシフトしてしまうと既存のM&Aプラットフォームと何が違うの?という話になりますし、地方へ人材を渡す橋渡しとしての価値も薄れていきます。
浅井 我々は「地方型」だと思っていて、都会は都会型のビジネスやプラットフォームで解決できると思っています。ですから、地方の後継者問題や事業承継問題を見て開発していく方針は変えません。結果として、それが都会でも有用だね、ということはあり得るかもしれませんが。
また、ひとくちに都会と言っても、東京の23区と、地方の政令指定都市、例えば我々が本社を置いている岡山県岡山市もそうですが、事情がまったく異なる。一律に人口の多寡で区別できるものではないので、そこは慎重に考えていく必要があると思っています。
「地域のスモールビジネスを救った集積が地方創生につながる」
―― 最後にお聞きしますが、継業バンクというのは、「地方創生」を実現するためのものなのか、地方のスモールビジネスを救うためのものなのか、どちらなのでしょうか。
浅井 長期の目標とするアウトカム(成果)として、「小さな仕事を承継する『継業エコシステムの構築』による、多様で豊かな地域の実現」を掲げています。地域のスモールビジネスを救った集積が地方創生につながる、ということです。
地域のスモールビジネス、小規模事業と言ってもタピオカ屋みたいなところじゃないですよ。その地域にとって価値のある仕事を守っていかないと、地方創生は実現しない。
「この町にはこんなにおもしろい仕事があって、可能性がありますよ」と、継業のテーブルに載せる。それを目掛けて、「僕は都会でサラリーマンをやるより、地方で一旗あげるんだ」というようなヒトたちがどんどんと来る。
そうなることによって、その地域の魅力や価値、活力が増して、地方創生につながる。「都会から地方に来て、カフェやゲストハウスを作りませんか?」ではなく、「地域のDNAを生かした、その地域ならではの仕事で成功しませんか?」という問いかけです。
そういうビジョンのもと、「ニホン継業バンクを全国1000の自治体で開設してほしい」と願って、やっています。
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2003年タワーレコードに入社。販促企画部長、ライブ事業部長を経て、2012年に岡山に移住。淡路島の道の駅にたまねぎのクレーンゲーム等を設置した「おっタマげ!淡路島」や岡山を代表する魚ままかりをアンチョビにした「ままチョビ」の企画・製造・販売など、都市のモノマネではない、その地域ならではの魅力を発信している。2020年1月に、M&Aでは承継機会の得られない地域の小規模事業の承継機会の創出を目指し、事業承継版・空き家バンク=ニホン継業バンクを公開。モットーは「できない理由を積み上げない」。