いいね!
ログインが必要です ログインが必要です
記事をシェア
メインビジュアルイメージ

「地方創生」5年の成果 脱・東京一極集中、アフターコロナへの期待

東京への人口一極集中によって引き起こされた地方の弱体化。原因と課題を認識しながら、この国はそこから脱することができていない。政府が地方創生戦略に本腰を入れてから5年。東京一極集中はさらに加速している。だが、状況は大きく変わった。人口過密下の集団感染、経済の停滞、物流の崩壊など、コロナ禍は東京一極集中の新たなリスクを浮き彫りにした。シリーズ「地方創生の極意」では、このチャンスを生かして課題解決に取り組む地域にも焦点を当てる。地方創生戦略第2期の5年は始まったばかり。今こそ反転攻勢へ。

▷関連記事:オンライン化進まぬ地方議会、取手市の突破術と地方自治法改正の提言

 

「集中から分散へ。日本列島の姿、国土の在り方を、今回の感染症は、根本から変えていく。その大きなきっかけにしなければならないと、こう考えています。ポストコロナの時代もしっかりと見据えながら、地方創生を新たなステージへと押し上げてまいります」

 

 国内感染者数が2万3000人を超え、新型コロナウイルスの第2波が襲いかかり始めた7月15日。国の「まち・ひと・しごと創生総合戦略(地方創生戦略)」の司令塔とも言える「まち・ひと・しごと創生会議」が首相官邸で開かれ、安倍晋三首相はこう意欲を示した。だが……。

 

 地方が成長する活力を取り戻し、人口減少を克服する——。

 

 安倍政権がそう銘打ち、地方創生戦略を開始したのは2015年4月のこと。今年4月でちょうど丸5年、次なるステージに突入したが、今のところ、お世辞にも結果が出たとは言えない。地方は、いまだ「危機」のさなかにある。

 

失敗に終わった地方移住・定住

 

 地方創生戦略の起点となったのは、元総務相の増田寛也氏が座長を務める民間研究機関「日本創成会議」が14年5月に公表した、いわゆる「増田レポート」である。

 

 「10年から40年にかけて20~39歳の女性人口が5割以下に減少する“消滅可能性都市”が全国の1799自治体のうち896ある」

 

 増田レポートは、「消滅可能性都市」というセンセーショナルな言葉と具体的な数字によって、以前からあった危機感を強烈に顕在化させた。これを受け14年9月、第2次安倍改造内閣の発足と同時に「まち・ひと・しごと創生本部」が設置され、同年12月には地方創生戦略の法的根拠である「まち・ひと・しごと創生法」が施行。翌15年度から第1期の地方創生戦略がスタートした。

 

 東京一極集中の是正に焦点が当てられ、東京から地方へ人の流れを作るため、政府は莫大な税金を投じて移住・定住を促進。15~19年度の地方創生関係交付金は累計総額で1兆3000億円以上(事業費ベース)となり、うち移住・定住に特化した事業だけで約700億円に上る。それを受けた地方自治体は、家賃助成金や子育て支援金などの手厚いサポートを打ち出し、我先にと住民の奪い合いを始めた。

 

 それから5年。残念ながら、地方の人口は増えるどころか、東京への一極集中が進むという結果となってしまった。

 

一極集中は止まらない。これからも東京都の人口は増加し続ける

 総務省統計局が公表した19年の住民基本台帳人口移動報告によると、転入が転出を上回る「転入超過」となったのは、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、大阪府、福岡県、滋賀県、沖縄県の8都府県。転入超過数の最多は東京都で、8万2982人だった。

 

 東京都に、神奈川県と埼玉県、千葉県を足した「東京圏」で見ると、日本人のみの移動者は24年連続の転入超過。19年は前年比9976人増となる14万5576人の転入超過となった。地方創生戦略が始まる前年、14年の東京圏の転入超過数は10万9408人だったので、東京一極集中はこの5年で、じつに33%も悪化したことになる。つまり、この数字だけを見れば東京から地方へ移住・定住を促進する政策は失敗したと言わざるを得ないだろう。

 

 地方の「今」はどうなっているのか。もう少し詳細に現状を把握していく。

 

変わらぬ東京一強、歯止めが効かぬ地方の人口減

 

 先に述べたように、地方創生戦略の発端は人口問題。この5年で各都道府県の人口がどう変動したのか、総務省統計局の人口推計を基に詳細を見ていく。まずは、地方創生戦略が始まる前年の14年から、最新のデータが出ている19年にかけて、「人口減少」の割合が高かった都道府県のランキングが以下だ。

 

▼「人口減少率」の高い都道府県(2014〜19年の推移)

順位 都道府県名 減少率(2019年の人口)
1位 秋田県 6.85%減(96万6000人)
2位 青森県 5.68%減(124万6000人)
3位 高知県 5.42%減(69万8000人)
4位 和歌山県 4.74%減(92万5000人)
5位 徳島県 4.71%減(72万8000人)
6位 山形県 4.69%減(107万8000人)
7位 福島県 4.60%減(184万6000人)
8位 岩手県 4.44%減(122万7000人)
9位 長崎県 4.26%減(132万7000人)
10位 愛媛県 4.01%減(133万9000人)

(出所)総務省統計局「人口推計」
注:カッコ内の人数は2019年10月1日現在の人口

 

 人口減少とは、主に出生数より死亡数が多い「自然減」と、転出が転入を上回る「社会減」から成る。19年は33道府県が自然減・社会減となったが、もともと全国に先駆けて少子高齢化が進んでいた東北では自然減が拡大する結果となった。

 

 全国平均が前年比0.38%減に対し、秋田県は全国で唯一の1%超えとなる1.11%減。青森県、岩手県、山形県も0.8%以上の減少で、上位5県のうち4つが東北だった。また、大潟村を除いたすべての自治体が消滅可能性都市だと指摘された秋田県は、その流れに抗えず、7年連続で人口減少率が全国一となっている。

 

 また、中山間地域の面積割合が全国トップレベルで、そこに多くの集落が点在する四国では過疎化が進むほか、転出超過も止まらないでいる。長崎県は19年の社会減少率が全国で最も高く、前年比0.48%。基幹産業である造船業が苦戦中で、三菱重工業が県内工場を売却することなどが影響し、県外への転出が広がっている。

 

 続いて、人口が増加、あるいは人口減少率が低かった都道府県のランキングである。

 

▼「人口減少率」の低い都道府県(2014〜19年の推移)

順位 都道府県名 増減率(2019年の人口)
1位 東京都 3.97%増(1392万1000人)
2位 沖縄県 2.25%増(145万3000人)
3位 埼玉県 1.53%増(735万人)
4位 愛知県 1.30%増(755万2000人)
5位 神奈川県 1.12%増(919万8000人)
6位 千葉県 1.00%増(625万9000人)
7位 福岡県 0.26%増(510万4000人)
8位 滋賀県 0.14%減(141万4000人)
9位 大阪府 0.31%減(880万9000人)
10位 宮城県 0.95%減(230万6000人)

(出所)総務省統計局「人口推計」
注:カッコ内の人数は2019年10月1日現在の人口

 

 この5年間で増加したのは7都県。東京圏あるいは地方の大都市圏が中心だ。とりわけ東京圏への人口集中は是正されるどころか、加速が続いている。先述したように転入超過は、リーマンショック前のピーク(07年:15万5150人)に迫るほどだ。その原動力になっているのが埼玉県である。19年の社会増減率は、東京都に次いで全国2位の前年比0.52%増。近年、大型商業施設や宅地の開発が活況で、子育て世帯の転入が増えている。15歳未満人口の割合は東京圏でトップの12.0%だ。

 

 沖縄県は出生率が1.82%(19年)と全国トップで、外国人の移住が増えていることも人口増の要因となっている。なお、ランキングには名を連ねているが、大阪府や宮城県では10年ごろから人口減少が始まっている。

 

人口減と高齢化で深刻化する未来

 

 この5年間で大きな改善が見られたとは言えない東京一極集中。では、この先の近い未来はどうなっていくのだろうか。

 

 「国立社会保障・人口問題研究所」の予測によると、人口は45年に約1億600万人となり、全国市区町村の7割が15年比で20%以上も人口減となる。そうした中で唯一増え続けると予測される都道府県が東京都で、15年比は0.68%増。それ以外の道府県は平均で22%減となる。さらにそこから全国20の政令指定都市を除くと減少率は23.8%に引き上がる。

 

 特に人口減が著しいのが東北地方。中でも秋田県は向こう30年で4割以上も人口が減るという予測が出ている。

 

▼「人口減少の予測」が高い都道府県(2015〜45年の推移)

順位 都道府県名 増減率(2045年の人口)
1位 秋田県 41.2%減(60万2000人)
2位 青森県 37.0%減(82万4000人)
3位 山形県 31.6%減(76万8000人)
3位 高知県 31.6%減(49万8000人)
5位 福島県 31.3%減(131万5000人)
6位 岩手県 30.9%減(88万5000人)
7位 徳島県 29.2%減(53万5000人)
8位 長崎県 28.7%減(98万2000人)
9位 和歌山県 28.6%減(68万8000人)
10位 山梨県 28.3%減(59万9000人)

(出所)国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(2018年推計)」
注:カッコ内の人数は2045年の推計人口

 

 市町村別で見ると、45年には全国約1800の自治体中、334自治体で人口が「半数以下」になるという予測もある。減少率の大きい上位100自治体のうち、北海道が3割と飛び抜けて多い。札幌市への一極集中に加えて、自然減、社会減ともに北海道は全国トップレベルであることが背景にある。かたや、東京圏や愛知県など都市部にある128自治体(全自治体の0.7%)では、45年までに人口が増加すると国立社会保障・人口問題研究所は予測している。

 

 少子高齢社会に突入し、全国的に人口が減ること自体は仕方のないことかもしれない。そうだとしても、全国の人口が減る中で、都市部だけは人口を増やしていく、という予測は、地方の衰退が加速するということを如実に示すことになる。さらに問題なのは、地方においては人口減に加え、高齢化も拍車がかかることだろう。

 

 日本の高齢化率は世界でトップ。19年9月時点で高齢者(65歳以上)の数は3588万人と、総人口の28.4%を占める。2位のイタリア(23.0%)と比べても大きな差がある。この高齢化率を、今後、地方がさらに押し上げていく。

 

▼「高齢化率」の上昇が高い都道府県(2015〜45年の推移)

順位 都道府県名 増減率(2045年の高齢化率)
1位 青森県 16.6%増(46.8%)
2位 秋田県 16.3%増(50.1%)
3位 福島県 15.5%増(44.2%)
4位 山梨県 14.6%増(43.0%)
4位 宮城県 14.6%増(40.3%)
6位 北海道 13.7%増(42.8%)
7位 茨城県 13.3%増(40.0%)
8位 奈良県 12.4%増(41.1%)
9位 群馬県 11.8%増(39.4%)
9位 兵庫県 11.8%増(38.9%)

(出所)国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(2018年推計)」
注:カッコ内は2045年の推計高齢化率

 

 45年の近未来、東京都も65歳以上の高齢者が増加しているという予測だが、15年からの伸び率は8%で、高齢者率は30.7%。これら上位の地方からすれば、かなり低い。

 

 人口減と高齢化のダブルパンチで、地方はますます負のスパイラルに陥っていく。自治体の税収が下がる一方で、医療や年金、介護などにかかわる社会保障費は増大。地方財政はいっそう圧迫され、新たな投資もできなくなる。住民の負担は増え、生活も不便になり、さらなる人口流出を引き起こす。地方にとっては、絶望とも言える近未来が待ち受けている。

 

 しかし、この予測には一つだけ、重要な観点が抜けている。「新型コロナウイルス感染症」のまん延、というファクターだ。

 

コロナ禍が地方にもたらしたもの

 

 冒頭で紹介したように、今年4月から地方創生戦略の第2期、5年が始まった。第1期となったこれまでの5年と何が違うのか。残念ながら、戦略そのものに大きな差異はなく、目新しい策も見当たらない。

 

 政府は今後5年間の「第2期地方創生戦略」において、引き続き東京への人口集中を回避し、24年度には東京圏への転入超過を解消するほか、「UIJターン」による地方での起業・就業者を6万人創出することを目指すとしている。

 

 ところが、その手法はというと、第1期から使われていた「移住・定住促進」や「地域おこし協力隊の活躍」といった“見慣れた”言葉が並ぶばかり。これまでの失敗の分析、そこから得た新たな知見などがあれば良いが、それもない。何も起きなければ、第2期が終わる25年も第1期と同様、芳しい結果は出ないという結末になっただろう。

 

 しかし、幸か不幸か、コロナ禍によって風向きが変わった。戦略云々関係なく、地方への人の流れが加速する可能性が出てきた。

 

 人口密集による感染者増大、スーパーマーケットなどでの買い占めパニック、物流網のパンク、企業活動の停滞がもたらす不況……。まず、これら、東京一極集中の弊害やリスクが、コロナ禍によって一気に噴き出した。

 

 そんな危機から逃げ出すように、東京から地方への”コロナ疎開”が相次いでいる。地方企業に就職・転職したいという若者も増えているという。現に20年5月、東京都は1069人の転出超過となった。人口移動報告に外国人を加えた13年7月以降、東京都からの転出数が転入数を上回ったのは初めてのことである。

 

 その直後に到来したコロナ第2波によって、現在は旅行や移動がしにくい状況下にあり、観光で潤う地方の窮状が伝えられている。だが、中長期的に旅行需要が減り続けるということは考えにくい。第2波が落ち着けば移住のトレンドもしばらくは維持するだろう。旅行者よりも移住者が増えるほうが地方経済の本質にインパクトをもたらすはずだ。

 

 未来を担う若者の動向や意識も変わりつつある。コロナの影響で大学キャンパスは閉鎖し、ほとんどがオンライン講義に切り替わった。地方から上京して一人暮らしをしていた学生も、家賃や生活費などの支出を抑えるために実家に戻って授業を受けるケースが出ている。今後オンライン講義が一般化すれば、進学のために移住する若者は減り、最大の地方課題であった若者の流出を防げる可能性は高まるだろう。

 

台頭する地方自治体

 

 コロナ禍によって地方が得た”追い風”は、人の流動性だけではない。

 

 「大阪モデル」と銘打ってコロナ対策の独自戦略を推進する大阪府や、全国に先駆けて2月28日に緊急事態宣言を出した北海道、すべての県立高校にクラウドサービスを導入してオンライン授業を実現した広島県など、政府の大号令を待つことなく現場でスピーディーに意思決定する地方自治体が目立つようになった。つまり、地方自治体の存在感が増した。

 

 東京が絶対的な存在ではない、という「新常態(ニューノーマル)」が浸透しつつある今は、一気に地方創生を進める、またとない機会である。この好機を逃してはならない。

 

 地方創生を風任せにしてしまおうという話ではない。この好機に乗じて、たとえば地方で高度な学習が受けられるような制度や、地方に移住してもこれまで通りかそれ以上のバリューを発揮できる仕事の進め方などを、可及的速やかに考えていく必要がある。

 

 足元を見れば地方は苦しい。特に観光産業などはコロナ禍で壊滅的な打撃を受けている。ただし、この窮地を乗り切れば必ずチャンスは巡ってくるはずだ。だからこそ、Renewsでは「地方創生」のアジェンダを中心として、アフターコロナの世界における新しい地方創生の形を考えていく。また、シリーズ「地方創生の極意」では、さまざまな課題解決に向けた具体的かつ実践的なアイデアを提案していきたい。この5年、国が地方創生戦略に費やした莫大な補助金の原資は、我々の血税である。これからの5年、同じ過ちを繰り返してはいけない。

 

▷シリーズ:アフターコロナ時代を生き抜くためには?

いいね!
コメントを見る 3 ログインが必要です 記事をクリップ 記事をクリップ
伏見 学

伏見 学 @manabu

地方の企業、行政、地域活性化などの取材を通じた専門性を生かし、「地方創生の推進」に取り組む。1979年生まれ。神奈川県出身。慶應義塾大学環境情報学部卒業、同大学院政策・メディア研究科修了。ニュースサイト「ITmedia」、フリーランスを経て、現在に至る。 |伏見学(ふしみ・まなぶ)

ログイン

アカウントをお持ちでない方はメンバー登録