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オンライン化進まぬ地方議会、取手市の突破術と地方自治法改正の提言

議員からの反発や、高齢ゆえのリテラシーの問題などから、多くの地方自治体の議会でオンライン化が進んでいない。そんな中、茨城県の取手市議会は2020年4月、いち早く議会活動のオンライン化に踏み切り、全国の先頭をひた走っている。取手市はどう壁を突破し、コロナ禍における変革を成し遂げることができたのか。議会事務局として改革を提言・推進した岩﨑弘宜氏が舞台裏を明かし、新たな提言を投げかける。

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「もし議員に新型コロナウイルスの感染者が出た場合、会期の延長を議決できなくなってしまいます。その万が一に備えて、定例会の会期を長くする案も事前に示させていただきます」

 

 2020年11月24日、茨城県取手市の議会運営委員会が開かれた。この日は、翌週から始まる「第4回定例会」の運営について協議した。

 

 参加者は取手市議会に所属する議員と議会事務局職員。淡々と会議は進行し、混乱もなく約1時間で閉会となった。ただし、例年と大きく異なる点がある。委員会に参加した13人中、8人がオンライン会議サービス「Zoom」を通じて自宅など議場ではない場所から参加していたのだ。

 

 昨年4月7日、東京都や神奈川県など7都府県に最初の緊急事態宣言が発令された。その時点で茨城県は対象外だったが、翌8日から取手市は、取手市役所内にある議場と各議員の自宅や事務所をZoomでつなぎ、「議会活動のオンライン化」をスタートさせた。

 

 それから8カ月が過ぎ、今や取手市議会にとってオンライン会議は「ニューノーマル(新常態)」になっている。

 

 20年12月までに委員会や市民との意見交換、他自治体からの視察研修、議員と職員の打ち合わせなど、大小合わせて60回の会議をオンラインで実施。これは1年間の議会活動の6割程度に当たる。オンラインで実施した会議のうち、取手市議会の施設から出席した議員は延べ20人程度にすぎない。

 

 筆者は日常的に全国の議会事務局職員などと情報交換をしているが、ここまでの規模でICT(情報通信技術)を活用している地方議会は聞いたことがない。後述するように、全国の自治体や議会などからのオンライン視察の申し出や問い合わせが相次いでいるのは、取手市のオンライン化が進んでいることの証左だろう。

 

 筆者はこのオンライン議会の実現と円滑な運営に向けて、議会事務局の担当者として職員一丸で奔走してきた。

 

昨年11月24日にオンラインで行われた議会運営委員会。もはや取手市議会にとって日常茶飯事だ(取手市議会公式チャンネルより

変われない議会・議員、オンライン化への抵抗

 

 新型コロナウイルスは、生活様式や働き方、あらゆるヒト・モノ・コトに変革を迫った。企業ではリモートワークが取り入れられ、オンライン会議が日常の風景となった。しかし、議会や議員となると、そうはいかない。

 

 企業や学校などでリモートワークやオンライン授業が普及するさなか、高齢者を含む多くの人が密集する議会もオンライン化すべきという声は少なくないが、現実にはほとんどの自治体が対応していない。

 

 例えば、早稲田大学マニフェスト研究所の調べでは、アンケートに回答した全国906議会のうち、委員会をオンラインで開催した経験があったのは、昨年11月末時点でわずか11議会にすぎなかった。

 

 今年1月7日には1都3県で再び緊急事態宣言が発令されるなど、終息の見通しは立っていない。仮にワクチンで鎮静化しても、また新しいウイルスが世界を襲う可能性は十分にあるだろう。有事はウイルスだけではない。自然災害もある。そうした脅威に備えるためにも、オンラインによる議会活動の整備は急務と言える。

 

 にも関わらず、なぜ、全国の議会でオンライン化が遅々として進まないのだろうか。

 

 地方自治体の議会運営に25年携わってきた筆者の経験からすると、まず地方議会には新しい物事に対する強い抵抗感やアレルギーがあり、それが壁となっているように見える。

 

 議員や職員の感染によって議会が開けず、再度招集告示の手続きをとったり、会議途中で散会せざるを得なかったりする状況が全国各地で起きている。そうした際、取手市のオンライン化の話が俎上にのることもあるようだが、ある地方の議会では、「取手市議会のやり方は問題がある」などと議長自らが発し、頑なにオンライン化を拒んでいると聞く。

 

 また、議会の運営改善などを考えるのは議会事務局の仕事の一つ。議会事務局の怠慢との指摘もあるが、ほとんどの議会では、議員と議会事務局職員に目に見えない主従関係があり、事務局の若い職員が新たな提案をすることは難しい。たとえ強い問題意識を持っていたとしても、議員や事務局内で一蹴されるというのは、よく耳にする話だ。

 

 では、なぜ取手市はすぐさまオンラインへと移行できたのか。全国1700を超える地方議会のためにも、我がまちの改革の記録を、ここに残しておきたい。


議会の黒子としてがむしゃらに走り続けた25年

 

 その前に、簡単に自己紹介をしたい。筆者は、長野県長野市で生まれ、父の仕事の関係から各地を転々とし、小学1年生の夏休みに市町村合併前の旧・藤代町(現・取手市)に居を構えた。地元の小中高を卒業した後の1992年4月、旧・藤代町の役場に就職した。

 

 父と同じ金融機関に勤めたかったが、単身赴任が多く不在がちな父に代わり、男手として少しでも母を支えたいと思い、地元で公務員を目指した。高校3年生の夏休みにはラグビー部の部活動の合間を縫って東京の専門学校へ通うなど、寸暇を惜しんでがむしゃらに勉強した。

 

取手市議会事務局の岩﨑弘宜次長

 公務員試験の最終面接は今でも鮮明に覚えている。

 

 筆者ともう一人、大卒の方が残っていた。当時の藤代町の職員採用は「大卒」「高卒」の区分がなかった。控室で待っている間の会話で、その方が大学卒業見込みだと分かり、「負けたくない」「合格したい」という強い気持ちがさらに湧いた。一方で、ラグビー部OBの大学生と夏合宿で交流試合をする際、毎年歯が立たない経験からなのか、筆者の卑屈な考えからなのか、「大学生には負けてしまうな」という感情が入り混じっていた。

 

 結果、その大卒の方の番号はなく、筆者が採用された。合格の嬉しさはもちろんだが、勝手に背負うものを感じた。高卒の筆者を選んでくれた町長や助役などに「岩﨑で良かった」と言っていただけるよう、公務員人生を全うしようと、18歳にして心に強く誓った。

 

 入庁後に配属されたのが議会事務局。議会では聞いたことのない用語が飛び交うなど、右も左も分からない中で、誰よりも朝早く出勤して、先輩方が見ている解説本などをこっそり読み、頭に叩き込んだ。以降、通算25年目の議会事務局職員として今も奔走している。

 

 そうした長いキャリアの中でも、今回のコロナ禍は未曾有の経験であり、議会のオンライン化は最も大きな仕事となった。壁をどう乗り越えてきたのか。順を追って説明したい。

 

藤代町から受け継がれた風土

 

 取手市議会がすぐさま議会活動のオンライン化に着手し、実現できた理由や背景は、大きく4つあると考えている。1つ目は、議員と議会事務局職員が“ワンチーム”で議会を運営している点だ。

 

 先述したように、多くの自治体では、議員と議会事務局職員に主従関係のようなものがあり、それが新しい取り組みの阻害要因となっている。しかし、今の取手市議会ではこうしたことは起きない。旧・藤代町の時代から、議員と職員の関係は平等かつ良好で、一体感を持って議会運営に取り組んでいる。

 

05年3月2日に開かれた藤代町での最後の議会の様子(藤代町議会だより「ひびき」より)

 ただし、05年に隣の取手市に編入してからしばらくは苦労した。かつての取手市議会には主従関係の空気があったためだ。

 

 それでも筆者は、議員と職員は「自治体を良くする」という同じ目的を持った、対等な関係であるべきだと考え、旧・藤代町からの風土を受け継ごうと尽力してきた。

 

 ある時、議員の意見に対して異論を述べたら、「事務局は黙ってろ!」と怒鳴られたため、「おかしいものはおかしい」と言い返した。こうした押し問答は1度や2度ではなかった。そんな苦しい時期もあったが、都度、誰かしら「事務局の言っていることが正しい」という言葉を掛けてくれる議員がいた。議会事務局職員は常に対話し、一枚岩で会議に臨んでいたことも救いだった。

 

 取手市議会の議員と職員の関係性が変わったのは、08年のこと。合併後初の一般選挙を経て、旧・藤代町議から再選した赤羽直一議員が議長に就任した。直後の定例会において、議長発議で「議会改革調査特別委員会」を設置したのだが、この特別委員会では、各会派からの提案事項に加え、「正副議長・議会事務局」提案を採用したのだ。

 

 その際には、正副議長が議会事務局職員を一人ずつ議長室に呼び、取手市議会の課題などをヒアリングしてくれた。これは当時の取手市議会においては画期的なことで、元からいた職員は一同驚いた。これを契機として、現在のような一体感が作られていった。

 

 この素地があったからこそ、今回もいち早くオンライン化に対応できた。おかげで、第3波が来ても、つつがなく議会の機能を継続できている。


働き方改革の一環でオンライン化を準備

 

 2つ目の理由は、先行して取り組んでいた議員の働き方改革である。

 

 以前より取手市は女性議員の働き方に課題を感じていた。議員は労働者でないため、労働基準法上の産休や育休が該当しない。そのため女性議員は出産直後でも無理を押して議場に行かねばならなかった。この改善を求めて、18年6月、全7人の女性議員が「誰もが政治参画しやすい社会をめざし実効性ある法整備を求める意見書」を提出した。

 

オンライン化以前の取手市議会

 意見書には、母子保護のため産前・産後一定期間は参集の対象としない法整備をすることや、ICTの整備によって議場以外からも議会審議の出席や参加を可能にすること、つまり議会のオンライン化などが盛り込まれた。これは同時に、介護などの課題解決にもつながる。

 

 取手市は高齢の議員が多く、近い将来、親やパートナーの介護に直面することは避けられない。男性議員からも共感を得られ、意見書は全員賛成で可決された。以降、議会のオンライン化の準備を着々と進めていた。

 

 新型コロナは、そんなさなかに襲ってきた。


できない理由をあれこれ述べず、躊躇せずにやってみる

 

 昨年1月後半、日本でも新型コロナウイルスのまん延が取り沙汰され、議場というリアルの場で議会が開けなくなるのは時間の問題だと思ったわれわれ事務局は、急ピッチで議会のオンライン化を推進した。できない理由をあれこれ述べるのではなく、躊躇せずに突き進んだ。これが、3つ目の理由である。

 

 昨年2月頃にはベンダーの勉強会に参加するなどして情報収集し、利用するICTツールを「Zoom」に決めた。当時、Zoomは脆弱性や秘密保持などの問題が指摘されていた。ICTに詳しい市民からも「岩﨑さん、Zoomはやめておけ。危ないぞ」と言われたが、「秘密会以外、議会は原則公開の場」であり、仮に情報が漏洩したとしても問題はない。それよりも実際に会議に参加する議員の使いやすさを優先した。

 

 4月頭にかけて、オンライン議会マニュアルを作成すると同時に、議会事務局職員が総出で議員にZoomの使い方などを教えて回った。ほぼ全ての議員がスマートフォンを持っていたため、アプリを入れてもらえば良かったが、一人はガラケー。自宅のパソコンにもWebカメラが付いていないことがわかった。

 

 どうしようか考えていると、その議員から「じつは俺、タブレット持っているんだよ」の一言。安堵もつかの間、「動かし方が分からない」と言うので、若手職員が一緒に初期設定から行った。

 

 そして迎えた4月8日、議会の感染拡大防止のために開催した「第1回災害対策会議(現・感染症対策会議)」で、議長を含む計7人の議員と議会事務局の職員が参加するオンライン会議を初めて実施した。事前の準備やレクチャーをしっかり行ったこともあり、問題なく会議を終えることができた。同会議はこれまでに計10回以上、オンラインでの会議を開催している。

 

 そのほか、市議会が独自に設置する各種会議や視察などでもオンライン会議を積極活用。昨年8月にはタブレット端末を議員に配布し、翌9月には「市議会委員会条例」と「市議会会議規則」を改正するなど、急ピッチでICTの活用を推進してきた。

 

 条例と規則の改正により、議案や請願を審査・調査する市議会の「委員会」においても、非常時はオンラインから出席できることになった。採決までは踏み込んでいないが、議案の説明や質疑応答はオンライン出席が認められる。そうした地方議会は残念ながらまだ少ない。

 

 突き進んだ結果、議員からの評判は上々だ。オンライン化について議員にアンケートを取ったところ、8割以上が「便利になった」と評価してくれた。

 

 結城繁副議長は「当初はIT機材の使い方を議員たちは心配していたが、事務局の丁寧な対応で問題なく運用できました。また、タブレット端末を導入したことで、議案などの検索が容易になり、重たい書類を持ち歩かずに済むなど、以前よりも便利で快適になりました」と振り返る。

 

 赤羽直一議員も、こう話してくれた。「慣れてくるとオンラインでも違和感なく議論が進められるようになります。いろいろな事態を想定して、準備しておくことの大切さを実感しました」。

 

議長の一声

 

 取手市がスムーズにオンライン議会へと移行できた背景として、最後にリーダーである齋藤久代議長の「リーダーシップ」や「覚悟」についても触れておきたい。

 

 実は、昨年4月7日に最初の緊急事態宣言が出た際、筆者の提案に「では、明日の対策会議はオンラインでやってみましょう」と最初に声をかけてくれたのは齋藤議長だった。この一言があってこその今の取手市議会だと思う。また、この即決の裏には、きっと他の市議も了承してくれるだろうという信頼関係があったことも忘れてはならない。

 

4月7日の緊急事態宣言を受け、齋藤久代議長自らが動画メッセージを発信した

 

 この日の出来事について齋藤議長もこう回想する。

 

 「安倍晋三前首相が緊急事態宣言を出した時は焦りました。取手市は首都圏への通勤通学者が多く、首都圏から取手市内へ通って来る人も大勢います。議会としても『市議会感染症対策会議』を設置し、開かなくてはならない状況でした。どうするべきかを議会事務局と話し合ったところ、『オンラインでできます!』と明快な回答を得たため、迷いはありませんでした」

 

実際は大した問題ではない

 

 かくして、幸いにしてことがうまく運んだ取手市。オンライン議会に対してはまだまだ批判的な意見や懸念が存在することは承知している。ここからは、それぞれの指摘について、筆者の見解や主張を述べていきたい。

 

 代表的なオンライン化の懸念は、「高齢の議員はICTが使いこなせない」というもの。だが、実際にやってみるとそんなことはない。Zoomなどのツールは決して複雑ではなく、一般のビジネスパーソンでも当たり前に使いこなしているものだ。

 

 やってみれば大した問題ではない。それを面倒だったり、やりたくなかったりする抵抗勢力が大げさに騒ぎ立てているだけではないか。要するに、変えようとしない言い訳、変化への拒絶に過ぎない。もしくは、機械操作ができない自分を他人に見られたくないといったプライドなのか。そんな懸念など気にせず、やってみればいいのだ。


リアルの議場でも居眠りで離脱する議員はいる

 

 「会議中にインターネット通信が落ちたり、途切れたりしてしまったらどうするのだ」という指摘もある。議論が継続できなかったり、答弁を聞き逃してしまったりすることを懸念する声だ。

 

 しかし、全国のリアルの議会はどうか。会議途中で離席、居眠りしたりする議員はいないのか。その議員は、議論が途絶えているのではないか。この現状を鑑みれば、オンラインの一時離脱は問題に値しない。通信回線が不安なのであれば、高速かつ有線の環境を整えれば良いだけ。議場ではスーツ着用で臨むように、議員の責務としてオンライン参加の場合は、通信インフラの整備を義務付けるというのも手ではないか。

 

 「議員が使用するICT機器のコストがかかり、税金の無駄遣いだ」という声もある。しかし、いまどきは議員もスマートフォンやパソコンを当たり前のように所有している。それを使えば良い。実際、取手市議会は今でこそ、タブレット端末を貸与しているが、当初は議員が自前の機器をそれぞれ使っていた。私物を議会で使ってはいけないというルールはない。

 

 「Zoomなどオンラインツールを使うことで、対話の情報が世の中に漏れたらどうするのか」という意見も耳にするが、前述の通り、そもそも議会は公開が前提。漏れても問題ないはずだ。以前、Zoomの会議中に全く知らないユーザーが乱入したということが報道されていたが、現在は待機室の設定やパスワード設定などで、容易にリスク回避ができる。

 

 「議会の臨場感がなくなる」といった指摘は、確かに一理ある。「野次は議会の華」と言われるように、周囲の野次によって、発言者を応援したり、反対に窮地に追い込んだりすることはある。ただし、原理原則に立ち戻ると、議会での議論は冷静沈着に行うべきである。現に、多くの議会基本条例にはそれが明記されている。そうした点では、むしろオンラインのほうが理にかなっているのではないか。

 

半日以上かかる議員視察もなくなった

 

 以上のことから、懸念は杞憂であることがわかっていただけただろう。慣れてしまえば従来の議会と大差はない。しかも、オンライン化は、さまざまなメリットをもたらしてくれる。

 

 最大のメリットは、コロナ禍においても議会を安全安心に継続できていること。第3波が到来しても、混乱なく運営できた。取手市議会運営委員会の岩澤信委員長は「オンライン化によって、議会運営の選択肢が広がりました。よほどのことがない限り、議会を止めることはないでしょう」とする。議会の傍聴者も大半がオンライン参加となっており、感染リスクの低減につながっている。

 

 メリットはこれにとどまらない。副次的なメリットの代表格が、業務の効率化。タブレット端末の導入によって、一つの定例会当たり約2万5000枚の紙を削減した。伴い、職員の印刷作業も計20時間以上減らすことができた。さらに、オンライン会議時は議員が登庁しないため、議員控え室の準備や片付け、消毒作業などの業務も、1日当たり1時間以上の削減となっている。

 

 思いがけないメリットも生まれている。一例が実地調査のライブ配信だ。

 

 通常は、公共施設の改修工事などの予算執行状況を確認するため、議員が公用車に乗り合わせて現地へ訪問し、調査する。これだけで半日以上かかってしまうのだが、オンラインだと担当者が現地から映像をリアルタイムで配信し、議員は自宅で見るだけで良い。劇的な時間短縮になる。すでに体育館の床工事調査や、防災のための堤防視察などをオンラインで実施し、前者については、議員が一人も現地へ行かずに現状を確認した。

 

オンラインツールによって、議員が現地に行かなくても、工事の調査などができるようになった

地方自治法改正に皆さんの力を

 

 以上のことから、オンライン化に踏み切ることができていない全国の自治体は、すぐにでも取り組んだ方がいいと断言したい。

 

 そして、筆者は今、一刻も早くオンライン議会を実践する仲間を増やし、全国の自治体に普及させることが急務と考え、本稿含め、普及啓発に取り組んでいる。なぜなら、地方議会のオンライン化はすなわち、「地方自治法」の改正につながるからだ。

 

 じつは、地方自治法の制約で、地方議会の「本会議」のオンライン開催は認められていない。

 

 総務省は昨年4月、「条例や規則を改正すれば地方議会の委員会においてオンライン出席は可能」とする通知を出した。だが同時に「地方自治法に規定のある本会議でのオンライン出席は不可」とする解釈も明確にした。(編集部注:総務省は昨年7月、全国市議会議長会の問い合わせに回答するかたちで、より詳細な「新型コロナウイルス感染症対策に係る地方公共団体における議会の委員会の開催方法に関するQ&Aについて」という通知も掲載)

 

 これまで本会議の件に触れず恐縮だが、取手市も各種委員会や議会に付随する会議・視察などでオンライン会議を実施しているのみである。11月から12月にかけて開かれた第4回定例会では、常任委員会や一般会計決算・予算審査特別委員会などをオンラインで行ったが、会期中の本会議は致し方なく、すべてリアルの議場に議員が集まった。

 

 本会議だけオンラインを認めないという制約・制限に合理性はない。議会運営上のメリットも限定的になる。そこで取手市は昨年6月12日に「オンライン本会議の実現に必要となる地方自治法の改正を求める意見書」を議決し、7月1日には齋藤議長をはじめとする市議が総務省を訪問。意見書を直接、高市早苗総務大臣(当時)に手渡し、懇談した。

 

地方自治法改正に関する意見書を提出するため、取手市議会のメンバーで総務省を訪れた

 現在までに、筆者の知り得る範囲では14以上の自治体が同趣旨の意見書を出している。しかし、まだまだ足りない。

 

 地方自治法を改正し、本会議も含めた地方議会のオンライン化、すなわち真の「オンライン議会」を実現するには、もっと多くの自治体がICT活用を進め、その実績をもって国にアピールする必要がある。総務大臣からも「取手市議会を起点にぜひ地方からうねりを」といった言葉をいただいている。

 

 法改正の日が来るまで、取手市は労力を惜しまないつもりだ。

 

 取手市議会では、オンライン会議に関する視察を頻繁に受け入れており、これまでに8自治体を応対した。加えて、筆者個人も三重県市議会事務研究会や山形県東根市など20を超える組織・自治体に対してオンライン研修を実施している。神奈川県茅ヶ崎市には、直接出向いて事例発表をさせていただいた。

 

議会の視察はオンラインでも受け入れている。写真は神奈川県寒川町議会による視察

 こうした活動は着実に成果を出し始めている。岩手県奥州市議会では、視察をきっかけにオンライン活用の検討を進め、12月には条例を改正した。

 

 我々はオンライン化に関するすべての情報をオープンにしている。例えば、YouTubeチャンネルを立ち上げ、議会中継をアーカイブ化している。全国の自治体にもっとまねてもらい、取手市を凌駕するオンライン議会の仕組みを作ってもらいたい。

 

 人口減少や少子高齢化の煽りを受けて、地方議会は長らく苦境に立たされている。とりわけ議員のなり手不足や政治への無関心は大きな課題だ。オンライン議会が当たり前になれば、こうした課題解決にもつながる可能性がある。東京で働くビジネスパーソンが副業・兼業で議員を担ってくれ、会社の会議室や自宅などからオンラインで地方議会に出席することも可能になるだろう。

 

 オンライン議会の実現は、コロナ対策だけでなく、地方自治の未来にも関わる。アフターコロナの世界にふさわしいニューノーマルな議会を一緒に作り上げていこうではないか。

 

▷シリーズ:アフターコロナ時代を生き抜くためには?

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岩﨑 弘宜

岩﨑 弘宜 @tumo182

1973年生まれ。茨城県立取手松陽高校卒業後、92年4月に北相馬郡藤代町役場入庁。議会事務局に配属。2005年に取手市と合併し、11年4月に広報広聴課へ異動したが、15年4月から再び議会事務局に。 |岩﨑弘宜(いわさき・ひろまさ)

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