実践!クラスで寄付、高校生が選ぶNPO 寄付意識を育む授業 #3
▷第2回:初公開、高校生を覚醒させる「国際協力と社会貢献」授業の全貌(#2)
「ほぼ1年間、お疲れ様でした。皆さんが選んだNPOはどこか。今から開票します!」
昨年12月18日、東京・練馬にある東京学芸大学附属国際中等教育学校(TGUISS)のある教室。生徒の話し声が止み、ざわついていた教室が一瞬、静寂に包まれた。
投票用紙を、筆者が木箱から一枚ずつ取り出し、読み上げていく。そこには、生徒の一人ひとりが寄付したいと思ったNPO(非営利団体)の団体名がそれぞれひとつ、書かれている。
「これで決まるの?」「ドキドキする!」
生徒から、再び歓声や驚嘆の声が上がる。そして、最も票を得たNPOが明らかに……。
緊急事態宣言中に始まった授業
これは、筆者が2015年度から担当している、TGUISSの6年生(高校3年生)向けの選択科目「国際協力と社会貢献」の一幕。新型コロナウイルス感染症の影響で緊急事態宣言が発令され、昨年の春先はオンライン授業を余儀なくされた。さらに、例年よりも約1カ月前倒しのスケジュールとなったが、今年度もなんとかフィナーレを迎えることができた。
基礎学習から始まる通年のカリキュラムは前回の記事でお伝えした通り。中盤は、NPOの代表など、社会貢献に取り組むゲストスピーカーを招いて組織研究を重ねたうえで、いよいよ後半は、生徒が選んだNPOにクラスで寄付をする、という実践に入る。
NPOのどこをどう評価して選ぶのか。その評価基準もその年の生徒自身が考えていく。寄付先候補となるNPOの代表に来てもらい、生徒と対話。そのうえで、NPOごとにチームにわかれ、ほかのチームにアピールをする。
フィナーレに近づいた昨年12月中旬。各チームの最終プレゼンテーションと、生徒全員による意見交換は、いつにも増して熱気が高まった。
あるNPOに対する支持が厚く、そのまま寄付先に決まりそうな流れだったが、生徒のたった一言で、みんなの気持ちが別の団体に向かうというドラマチックな展開もあった。果たして、最終的にどのNPOが選ばれたのだろうか——。
本稿では、生徒がどのようにNPOを評価し、寄付先を決めたのか、その過程をダイジェストでリポートしていく。
▼実践①「評価基準の策定」(2020年10〜11月)
今年度のクラスは「寄り添い」を重視
この授業の目玉がNPOの「評価基準の策定」であることは、前回もお伝えした通り。寄付先を決める「ものさし」としても活用する。約9カ月かけて学んできたことのすべてがここに集約されていると言ってよい。
1カ月半の時間を費やし、昨年11月にでき上がった今年度の評価基準は、「想いの可視化」「寄り添い」「楽しさ」「透明性」「成果」という5つの「評価項目」から成る。各項目の評価が高いNPOが、自分たちの寄付先となる。
過去の評価基準との違いがいくつか見られた。たとえば、「寄り添い」は初めて出たキーワード。上から目線で弱者に寄り添うということではなく、対等に接しているかどうか、というニュアンスだ。
ある生徒は「支援者も被支援者も上下関係なく、全員の関係性が対等で、お互いに支え合うことができている団体を、私たちは重視した」と話す。コロナ禍で絆の大切さが再確認されたという、今の世相を反映したものかもしれない。
なお、過去の評価基準は以下の通りだ。
意見の取りまとめに四苦八苦
この授業では、「個人リサーチ」「グループワーク」「全体での対話」を一連のプロセスとし、あらゆることを深掘りしていくのが特徴。評価基準作りも、このプロセスを何度も繰り返しながら、ブラッシュアップして、最終的にひとつにまとめあげる。
当然、生徒はそれぞれ違った価値観を持ち、ときによって意見も変わる。これを、クラス全体の意見としてまとめていくのに、生徒たちは毎年度、四苦八苦している。
生徒たち自身が評価基準を作り上げていく
例えば今年度、評価基準作りの初回の授業において、評価項目の候補として飛び出たキーワードは、「成果」「運営」「広報」「活動内容」「持続性」「組織」。掘り下げた2回目の授業では、「情熱」「実績」「信頼」「独自性」「時代の流れとの適応」「若者」「透明性」というキーワードも挙がった。
この時点で既に13個もキーワードが出ているが、評価項目としては多すぎる。似通っているキーワードもあるため、そこから生徒たちは対話を繰り返して整理していく。この作業が大変で、例年多くの時間を費やす。
今年度のクラスは、グループやクラス全体の対話の中で、キーワードの関連性に着目しながら取捨選択することによって先の5つの評価項目へと絞り込んでいった。
これまで授業で培ってきたファシリテーションスキルも効果を発揮した。「皆の意見が分散して、収拾がつかなくなることはあります。それをファシリテーターが時間をかけて、視点を提示することでまとめ上げていくこともありました」。評価項目の集約に貢献した生徒は、こう振り返る。
外部専門家のアドバイスも有効
生徒だけで議論を続けていると、煮詰まってしまう。そんな状況を、外部の専門家のアドバイスが打開してくれることもある。完成度を高めるには有効だ。
ここ数年は、NPO評価基準作成の“プロ”である非営利組織評価センターの山田泰久氏にゲスト講義いただき、生徒の着眼点などを分析してもらっている。今年度の講義後の振り返りでは、自分たちで項目として挙げていた「信頼」への重要性を再度認識したことがうかがえる。以下が生徒たちの感想だ。
「山田さんのお話や非営利組織評価センターが行なっているガバナンスチェックなどを見ても、やはり信頼性というのが重要視されているように感じました」
「さまざまな評価物を参考に公平性を保ちながら評価することは、NPO団体の信頼性を保証し、多くの人が安心できる寄付文化を作り上げることにつながるのではないかと思いました」
結果的に、すべての項目は「信頼性」を評価するためのものである、という共通認識が定まった。
▼実践②「個別NPOの評価」(20年11〜12月)
NPO選びも生徒たちで
評価基準の策定の次は、いよいよ、寄付先候補となる「個別NPOの評価」へと進む。ただし、実際には評価基準策定の作業とグラデーションで重なりながら進めていく。
まずは、寄付先候補となるNPOの選定から始まる。
例年、コモンズ投信が主催する「社会起業家フォーラム」の登壇団体から寄付先候補を紹介いただいて、筆者が選んでいた。
その際、同フォーラムを担当する馬越裕子氏にご協力いただき、ある年はまったく違うジャンルのNPOを、またある年には「子どもに関する支援を行うNPO」というテーマを設けたり、直接的支援を行う団体や、啓発活動を行う団体を混ぜてみたりと、リサーチする寄付先候補団体からも生徒たちの学びが起きるように工夫してきた。
今年度は方法を変え、最初から生徒が絞り込んでいくほうが、より「自分ごと」になるのではないかと考えた。
そこで、まずは「社会起業家フォーラム」に登壇した団体の講演動画を生徒全員に見てもらい、その中からそれぞれが興味・関心のある団体を一つ挙げてもらうことにした。「社会起業家フォーラム」に登壇した団体は、これまでに約120団体あるが、生徒たちの選択も実にバラエティに富んでおり、ほとんど同じ団体はなかった。
ジャンルの重複などを避け、ある程度の数に絞ったうえで、筆者が直接、各NPOに連絡。授業の趣旨を説明し、理解や共感を得られた団体の中から、外国人児童の学習支援を行う「にわとりの会」、胎児の病気や障がいに向き合う「親子の未来を支える会」、そして難民支援の「WELgee」の3団体にご協力いただけることとなった。
チーム編成はランダムで
候補が決まれば、次は「応援団」の結成だ。生徒は3つのチームにわかれ、それぞれ1団体を担当。先に決めたクラス統一の評価基準に照らし、各NPOを分析。応援団として、それぞれのNPOが最終的に選ばれるよう、アピールポイントを探っていく。
まず、各チームのリーダーは、動画を見てそのNPOを選んだ生徒とし、他のメンバーはランダムで割り振ることにした。全員を興味や関心のある分野の団体で分けてしまうと、生徒には最初からある程度のバイアスがかかってしまうため、今年度はこのやり方を取り入れた。
各チームリーダーは、それぞれのNPOを推薦した理由を、こう話す。
「私自身もペルーの子どもに日本語を教えるボランティアをやっていて、このテーマに強い関心と問題意識を持っていました」(「にわとりの会」チームの馬路陶子リーダー)。
「出生前診断で病気や障がいを持つことがわかった子どもを産む、産まないという選択に関わらず、『共に長くサポートしたい』という考えに共感しました」(「親子の未来を支える会」チームの工藤颯莉リーダー)。
「私はこれまでどこかで『難民』は生活に困っている人という偏ったイメージを持っていましたが、WELgeeの話を聞いて、全員がそうではないことを知りました。彼ら一人ひとりが描くビジョンを応援することで、その先にいる何百人も応援できるんだという、WELgeeの活動に意義や魅力を感じました。」(「WELgee」チームの笠神幸花リーダー)。
日本の胎児医療制度を整えたい
次に、評価基準を用いて、具体的に各チームが担当するNPOのアピールポイントを見出していくわけだが、インターネット上の情報などだけでは理解が深まらない。
そこで、例年、寄付先候補のNPOを教室に呼んで、直接、お話をさせていただく場を設けている。ここでの対話がNPOの評価や、寄付先の決定に大きく影響する。
11月27日、トップバッターとして、NPO法人 親子の未来を支える会の林伸彦代表理事に来ていただいた。
産婦人科医でもある林代表らが前身の任意団体「出生前診断を考える会」を2014年に立ち上げ、翌15年にNPO法人として同団体を設立。胎児医療に関する支援や啓発活動などを行っている。
出生前診断で病気や障がいが見つかり、中絶を選択する親は少なくない。そのため、林代表は産婦人科医として出生前診断を積極的には推奨していないというが、診断したいという親は多く、それによって悩む人も増えている中で、支えの手が必要だと訴えた。日本は欧米と比べて胎児に対する医療や、病気や障がいを持って生まれる子どものサポート制度が不十分であり、これを変えるために林代表らは尽力している。
「出生前診断や胎児医療は高校生にとっては、まだリアリティのないテーマだと思います。ですが、若い人たちの興味を惹きたい」
そう訴える林代表に、男子生徒から「こうした問題について、男女の意識の差は、日本だと特に大きいのではないかと思っています。男性としてどう関わっていけばいいか教えてください」という質問があった。
「外から見ると女性中心の団体というイメージがありますが、じつは私を含めて立ち上げメンバーはほぼ男性です。胎児医療の制度を整備するために国に働きかけるなど、男性でもこの問題に関わる機会はたくさんありますよ」と林代表。対話が広がった。
難民が働ける場を提供
続いて12月3日、NPO法人 WELgeeでPR部を統括する林将平氏が来てくれた。同NPOは、日本にやって来る難民支援、とりわけ就労支援に力を入れており、渡部カンコロンゴ清花代表をはじめ、20〜30代のメンバーが中心という若さが特徴だ。「若者が多い団体だからこそ、高校生も活動に参加しやすい」と林氏は訴えかけた。
ある女子生徒と林氏のあいだで、こんなやりとりがあった。
「ヨーロッパと比べると、日本はまだまだ人種差別があるように思えます。例えば、大企業の偉い方で、年齢が上にいくほど、そうした見方があるのでは。企業との交渉で困ったことはありませんか?」
「大企業のトップは硬いイメージがありますが、意外と難民受け入れなどの社会貢献をしたいと思っている人は多い。ただし、現場がそうとは限りません。実際に難民の人たちと働くのは現場の社員で、日本語が話せない難民とどうつきあっていけばいいか、悩んでいる人も少なくありません。ここは課題に感じています」
このやりとりは難民受け入れに対する企業内調整の難しさを示唆している。授業終了後も林氏を複数の生徒が取り囲み、対話を続けていた。
外国人の子どもが直面する「ダブルリミテッド」
翌4日は、最後の寄付先候補として、NPO法人 にわとりの会の丹羽典子代表にお話しいただいた。外国人児童生徒の支援を手がけている同会は、愛知県小牧市に拠点を構えている。今回は移動を自粛し、オンライン会議サービスの「Zoom」での参加となった。
丹羽代表は、30年以上の教員生活のなかで、外国人の子どもが言葉や文化の違いで苦労している姿を目の当たりにしてきたという。日本語も、両親の母国語も使えるものの、両方ともに年齢相応の言語レベルには達していない「ダブルリミテッド」の問題が散見されていた。これを解決しようと、外国人児童生徒の学習教材・カリキュラムを開発し、広めるために、にわとりの会を立ち上げた。
帰国子女の多いTGUISSの生徒たちにとっても、馴染み深いテーマだ。幼少期に海外で過ごし、帰国に際して日本語を猛勉強したという生徒も少なくない。そんな背景もあって、生徒の関心も高く、ある生徒はこんな質問をしていた。
「コロナ禍で多くの外国人が失業している状況で、社会復帰のために大人向けの日本語教育はできないのでしょうか」
「既ににわとりの会では、日本語検定を参考に大人の外国人向け教材を手作りし、仕事に役立つ日本語や敬語などを教えています。大人に教えるのは手応えがあって楽しいし、その人たちにあった教材、カリキュラムがもっと必要だと感じています」。丹羽代表がそう答えると、生徒は感心した様子でPCのモニター越しにお礼を述べていた。
▼実践③「寄付活動」(20年12月)
いざ、最終プレゼンテーションへ
すべての寄付先候補との対話を受け、各応援チームはアピールポイントを整理していく。各NPOの言葉に加え、身振り手振り、表情などすべてが貴重な材料となり、プレゼンテーションをまとめあげ、他チームの生徒の支持をなんとか自陣に集めようと努力する。
プレゼンテーションの方法について生徒から尋ねられたが、筆者は「自由にやって構わない」とだけ伝えた。すると、紙芝居を作ろうかというチームもあったが、蓋を開ければ、2チームは「PowerPoint(パワーポイント)」でプレゼンテーション資料を作成。もう1チームは、議論の内容をテキストとイラストでリアルタイムに記録する「グラフィックレコーディング(グラレコ)」を活用したプレゼンとなった。
プレゼン資料を作成したチームの生徒たちは、発表前日に全員で電話をしながら、クオリティーを上げていったそうだ。授業時間以外でもこうした準備に余念がないのは、生徒が真剣に向き合っている証左であり、教員としても頭の下がる思いだった。
入念な準備を経て、12月17日、最終プレゼンテーションの授業が始まった。1チームの持ち時間は約10分だ。
評価項目を積極アピール
1組目は、にわとりの会を推すチーム。メンバー全員が前に出て、順番にアピールしていく。一人は、幼少期に海外で暮らしていた自分自身がダブルリミテッドだったという体験を語り、いかに言語学習の機会が必要であるかを切実に訴えた。
評価項目で、特に強調したのが「寄り添い」。にわとりの会では、先生と生徒が対等であり、家族のように小さなコミュニティーで子どもたちが学んでいる。単なる言語学習の支援にとどまらず、たとえば高校の合格発表まで団体のスタッフがついていくなど、親身になってサポートしている点を評価していた。
このチームのプレゼンで印象に残ったのは、子どもたちの日本語能力が身に付くことで、学校や社会での生活を不自由なく送れるようになり、それによって成長した子どもが次の世代や困っている人たちを支援する、というサイクルの成立を強調したことだ。時間はかかるかもしれないが、ゴールの達成に向けて着実に近づいていくことを期待しての評価だった。
2組目は、親子の未来を支える会。このチームには、グラレコを得意とする生徒がいる。ふだんは、授業中にリアルタイムでホワイトボードに論点をまとめてくれるが、この日は事前にチームでまとめたものをしっかりと書き込んだホワイトボードを準備していた。
アピールポイントは、「高校生と一緒に企画したい」という林代表の熱意を中心に据え、「私たちが一緒にパンフレットを作るなどの具体的なアイデアもある。ここに寄付すれば、それが実現できます」と呼び掛けた。
このチームは、評価基準の「楽しさ」を「参加して得られるやりがい」に読み替えて評価したい、といった点が印象的だった。中高生ではまだ具体的には想像できないが、誰もが関わる命の問題に対して、若者としても考えていくべき。そのためにも、まずは自分たちが団体の活動を積極的に支援し、接点を作ることに意味があると訴えた。
最後は、WELgeeの応援チーム。綿密に作り込んだパワーポイントの資料を使って、6人のメンバーが交互に団体の良さをアピールした。このNPOは、若いスタッフが多い。評価項目のなかでも「楽しさ」に力点を置いたプレゼンとなっていた。
「意欲的で活発な若いスタッフが多く、雰囲気が良い。さらに、被支援者である難民の人たちも自分らしさを持っていて、前向きに自立を目指している。双方が主体的だから、活動はサステナブル(持続可能)だし、何よりも楽しく働くというイメージを打ち出している」
このチームは、従来の難民問題に対する「難しいテーマ」「かわいそうな人たち」という印象から、「社会で役に立つ人材」「明るく楽しく一緒に働く人たち」という印象へと変容させている点に共感しているようであった。
評価基準の中では「寄り添い」に注目。難民の方へ寄り添うだけでなく、運営スタッフも含めて、関わるすべての人々がお互いに「寄り添う」姿勢が感じられる活動だという点を強調していた。
最終プレゼンの場で各NPOの魅力などをアピールする生徒たち
ラスト10分、流れが変わる
最終プレゼンの翌日は、いよいよ冒頭でも紹介したフィナーレ。50分という授業時間をフルに使い、寄付先を一つに決める投開票を前に、生徒全員による対話の機会を設けた。
まずは、各グループのリーダーを中心に、プレゼンで伝えきれなかったことなどを補足。自分のチームばかりアピールするのではなく、他のチームのNPOの良いところも指摘していたことが印象的だった。
そこから、フリーディスカッションに移る。
口火を切ったのは、「にわとりの会は寄付を教材開発のために直接使ってもらえるのがいい」という発言をした生徒。これに、「日本語教材はこの団体だけでなく、全国の同じような塾でも使える」「それこそ、難民の人たちの日本語学習にも生かせる」といった意見が続出し、序盤はにわとりの会チームへの共感が集まっていた。
中盤では、難民支援のWELgeeチームが盛り返す。
「TGUISSの生徒としてのスタンスも大切。アフリカなどの難民も支援するWELgeeに寄付することで、学校のテーマである『国際』について考えるきっかけになればいいと思う」
「WELgeeのように、スタートアップで、これからという団体に寄付するほうが、影響を与えやすい。他の2団体はシステムができ上がっている感じがする」
残り時間は10分を切った。このまま大きな動きはなく投票に突入かと思われた、そのとき、流れが変わった。
得難い経験にこそ価値がある
「10万円を寄付して終わりではなく、その後も団体とどう関わっていけるかを考えたいな」
ある生徒がこう呟やくと、その発言をフォローするように、別の生徒が「(外国人や外国語が関係する)にわとりの会やWELgeeは、たしかにアクションに関わりやすい。親子の未来を支える会は、高校生には壁がある。けれど、こういう機会に、入り込んでいくべきでは」と声を上げた。
これを機に、親子の未来を支える会を支持する声が増えていく。
「将来どうなるかわからないけど、親子の未来を支える会がいちばん縁遠いかなと思った。そう考えると、ぜひ応援したいと思った」
「親子とか家族とかって、本当はもっと身近であるべきだと思う。出生前診断を受ける前から葛藤があるなんて、私は全然知らなかった。若者が知るべきだと感じた」
決定的だったのは、「親子の未来を支える会は、『高校生とつながりたい』と言ってくれただけでなく、4コマ漫画の制作など、私たちも関われそうな具体的な協働を考えてくれた」という意見。これに多くの生徒の心が動かされたと思う。
僅差の末、決定
対話は続いていたが、予定の時間となったため、投票へと移った。
今年度のチーム決めは、リーダー以外はランダム。生徒の中には、「本当は別の団体を応援していた」という者もいるだろう。そこで今回は、一人2団体に投票できるようにした。
例年は一人1団体だったが、自分の興味関心をもとにチーム分けしていたため、応援していた団体へ投票した生徒が多く、票もばらけることはなかった。2票を持つことで、1票は自分のチームのNPOに投じたとしても、もう1票でばらけさせることが可能となる。
結果、今年度のクラスの寄付先として選ばれたのは、親子の未来を支える会。最多の15票を集めた。じつは筆者は直前まで、生徒に身近な、にわとりの会になるのではないかと思っていたが、その読みは見事に外れた。
生徒全員による話し合いは大いに白熱した
クラウドファンディングで原資集め
寄付の原資はクラウドファンディングによって集めた。そこから10万円もしくは15万円を団体へ寄付する。実際に生徒たちと団体の元へ訪れ、目録を贈呈する予定だ。
NPOへの寄付を始めてからは5年目になるが、最終決定に向けた生徒たちの対話は毎年、生徒たちの成長を実感することができ、感慨深いものがある。真剣に話し合う姿は社会貢献を「自分ごと化」した証。もっとこうした姿を見たい。そんな若者たちを育てていきたい。あらためて強く感じる今年度の授業だった。
実は、より多くの若者に対するアプローチの準備を始めている。全国の同志とともに、学校の枠を超えて、社会貢献教育を広めるための取り組みを進めているところだ。次回はこのプロジェクトの概要や展望について、お伝えしたい。
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▷特集:藤木流 10代からの社会貢献
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1979年生まれ。大学院時代に、イスラエルとパレスチナの子どもたちの信頼醸成プログラムを行うNPO法人の活動に参加。2009年から現職。ソーシャルアクションチーム顧問や、Social Actionコーディネーターとして学校全体の社会貢献活動を支援する。「国際協力と社会貢献」「ファシリテーション実践」などの講義も担当 |藤木正史(ふじき・まさし)