ドイツ流、脱「包装ごみ」の生活 欧州消費者のサステナビリティ意識
「使い捨てプラスチック製レジ袋、2022年1月から提供禁止へ」――。
昨年12月、ドイツ連邦議会(上院)は、小売業者が使い捨てのプラスチック製レジ袋を顧客に配布・販売することを禁止する「容器包装廃棄物法」の改正案を承認した。2022年1月から施行される。
すでにドイツでは2015年、スーパーマーケットでのプラスチック製レジ袋の有料化を自主的に導入することで連邦環境省と小売業者が合意済み。結果、プラスチック製レジ袋の利用数は、2015年の48億枚から2018年には16億枚にまで削減された。今回の法改正はこれを強化するもので、違反した小売業者には最高で10万ユーロ(約1300万円)の罰金が科される。
2020年7月、日本でレジ袋が有料化になった際、ちょっとした困惑が消費者のあいだに広がったようだが、同じ年の暮れ、ドイツは「提供禁止」へと大きく歩みを進めた。
しかし、筆者を含め、ほとんどのドイツ人は驚いていないし、困ってもいない。むしろ、あるべきステップとして、誇りに思っている。欧州の消費者にとって、サステナビリティ(持続可能性)や環境に配慮したライフスタイルは、特別なことではない。
日本から欧州に移住して感じたこと
2006年に日本から欧州に移住した筆者は当初、欧州消費者のサステナビリティへの意識の高さに驚かされた。
定期的に日本へ一時帰国しているが、最も違いを感じるのが、使い捨てのプラスチック製が大半を占める「容器包装廃棄物(包装ごみ)」に対する意識。帰国するたびに「なんで、日本の生活はこんなにごみが出るの!?」と驚いてしまう。
前回の記事「サステナビリティ、欧州企業の本気度と日本との落差」では、欧州企業のサステナビリティへの取り組みがいかに本気であるかを紹介した。その背景として、EU(欧州連合)全体での政策や法制度が後押ししていると指摘したが、消費者がサステナビリティに対して本気で取り組んでいるので、企業も対応せざるを得ない、というロジックもあると考えている。
では、欧州消費者の意識とは、具体的にどういうものなのか。どんな生活を送っているのか。まずは、移住から早くも15年ほどが経ち、いまではすっかりと欧州の生活に馴染んでいる筆者の“リアルな日常”からお伝えしたい。
レジ袋や紙袋は「ない」前提
筆者は食料品などの買い物に出かける際、必ずバスケットを持ち歩くようにしている。筆者が10年以上愛用している買い物用のバスケットは、ドイツではエコバッグに次いでよく目にするタイプだ。
うっかりバスケットを忘れてでかけたり、たまたまバスケットがないときに買い物をしたりするときは、すべて手で抱えて帰ることもある。日本では、ついお店に「売ること」以上のサービスを求めてしまいがちだが、こちらでは自己責任。同じように商品を抱えて帰る人をよく見かける。
今では、レジ袋や紙袋を渡さない店舗がほとんどで、「袋、いらないよね」という共通認識が店舗と消費者のあいだにある。有料であっても渡さない(用意していない)店舗も増えてきた。意識して「レジ袋や紙袋を購入しないようにしている」というよりは、「ないことを前提に生活している」感覚だ。
その感覚は、スーパー以外でも、大型の商品であっても、高額であっても同じ。昨年9月、旅行前に地元のスポーツ用品店でウェットスーツを購入した際、店員がなにも言わずそのまま手渡してきたので、裸のまま抱えて持ち帰った。「万引き」と間違えられそうだと不安に思う人もいるかもしれないが、お店を出る時にレシートを持っていれば問題はない。
商品の「個包装」も、ないのがスタンダード
買ったものをまとめる袋だけでなく、個々の商品からも包装ごみは出るため、なるべく包装が少ないものを買うようにしている。そもそも包装ゴミを出さないよう配慮しているメーカーや商品が多く、自然とそういうものを選択している、という感覚だ。
たとえば、日本のように一つひとつのお菓子をプラスチック袋で個包装している商品は少ない。ドイツのレトロなアメ「Dallmann’s」は我が家の常連おやつ。紙パッケージのなかに、紙をコーティングした内袋があり、そこにアメがまとめて入っている。
欧州人の主食であるパンの個包装についても、ないことが当たり前。日本の多くのパン屋は、衛生面や味の乗り移りを気にするためか、一つひとつをビニール袋に入れてくれる。対してこちらでは、店舗がまとめて紙袋に入れるか、もしくは客が持参した袋に詰めて持ち帰るのがスタンダードだ。新型コロナウイルスの流行によって、パンを自宅で作る家庭が増えたという変化はあったものの、パン屋の対応は特に変わっていない。
ほかにも、ごみを出さない生活が日常に根付いている。たとえば、日本では当たり前の生活必需品である「使い捨てラップ」が我が家にはない。代替として、洗えば再利用できるシリコンラップを使用している。
飲料の容器はどうか。ドイツ人の夫は、ドイツ人らしく家でもビールをよく飲む。特に気にしていなかったが、よく見ればすべて瓶ビール。「なんで?」と聞くと、「環境に優しいからだよ」という答えが返ってきた。
考えてみれば、液体やペースト状のものを入れる容器として、瓶・缶・ペットボトルの3種類があるが、我が家はビールだけでなく、ヨーグルトや蜂蜜、牛乳、ミネラルウォーターまで、ほとんどが再利用(リユース)可能な瓶。空き瓶はスーパーで回収してもらっている。
「No Waste(ごみゼロ)」目指す近所のツワモノ
日本では、筆者の生活が「一風変わった、環境意識の高い人」に映るかもしれない。しかし、この地では我が家は「ふつう」程度。周囲には、もっとすごいツワモノがいる。
たとえば、近所のロシア系ドイツ人女性のイリナさん(仮名)は、「No Waste(ごみゼロ)」を目指して、家庭ごみを極限まで減らすことに心血を注ぎ、「今週はこんなにごみが減った」といつも自慢をしてくる変わり者だ。
スーパーなどで肉を買うとき、我が家は紙で包んでもらっているが、イリナさんは持参したタッパー容器に詰めて持ち帰る。生ごみが出れば、庭にある「コンポスト」で自然分解させて処理している。
イリナさんは同時に「No Plastic(プラスチックゼロ)」の生活も意識しており、プラスチック容器に入った商品を極力買わない。シャンプーもボディ用石鹸も、紙に包まれた固形のものを使用。前述したように、我が家では使い捨てラップの代わりにシリコンラップを使っているが、それもいつかはプラスチックごみとして廃棄される命運にある。これを避けるため、彼女はオーガニックのコットン生地にミツロウを染み込ませた天然素材のラップを使っている。
イリナさんほど徹底して実践している例は特異だが、「包装ごみを出さないようにしよう」「使い捨てプラスチックを使わないようにしよう」という心がけ自体は、もはや国民全体の共通認識として浸透している。
ドイツ人の96%が包装ごみの削減を重要視
ドイツを代表する消費者組織連盟(VZBV)がドイツの大手市場調査機関KantarEMNID(カンター・エムニート)に委託するかたちで2018年11月に実施した、容器包装ごみに関する意識調査がある。この調査によると、国民のじつに96%が包装ごみの削減を重要視している。
▼ドイツ人の「包装ごみ」に対する意識調査(2018年11月)
プラスチック製が主流となっているテイクアウト(持ち帰り)用の使い捨て容器に関しては、その使用を減らす施策を大多数が支持。71%が「容器の持参」に賛成しているほか、「使い捨て容器の使用禁止」という強い施策の支持率が57%と、「有料化」を支持する51%を上回っている。
ごみを減らす、プラスチックごみを削減するためなら、容器の持参は厭わず、さらに使い捨て容器の店舗での提供を禁止にしてもよいと考える国民が6割近くいるということだ。
「使い捨て容器のデポジット制の導入」という選択肢に55%の支持があるが、これは説明が必要だろう。ドイツでは、すでに「Pfand制度」という飲料容器のリユースを促すための強制デポジット制が定着している。このPfand制度については次回以降、詳細にお伝えしたい。
すべてはサステナビリティへの貢献
このように、ドイツでは、あらゆるごみを出さないようにしようという意識が浸透し、そうした生活が定着している。特に石油由来のプラスチックごみは、生産と焼却の両面で温室効果ガスを出し、自然界に流出したごみは分解されない。近年は海洋汚染や海洋生物への悪影響も声高に指摘されているため、筆者も含めて周囲の意識が高まっているように感じる。
ただし、「ごみ削減」だけにこだわっているわけではなく、「あらゆるサステナビリティに貢献したい!」という感覚。だから、包装ごみが出るか否かに加えて、素材や製法といった要素も商品購入時の大きな判断基準となりつつある。
例えば筆者は、基本、野菜はすべて有機製法の国産を選ぶようにしている。化学肥料や農薬は土壌にも人間にも悪いし、外国産のものは輸送で多くのエネルギーを消費し、温室効果ガスも排出している。
食器・キッチン・洗濯向けなどの洗剤は、ドイツ生まれのサステナブル(持続可能な)ブランド「Frosch(フロッシュ)」に統一している。植物由来の界面活性剤を使用しており、成分のほぼ100%が自然界の微生物によって分解されるという。
2013年以降は、欧州原産のオリーブや菜の花を原料に取り入れることで、熱帯栽培エリアからの調達を減らし、熱帯雨林保護や輸送に伴うCo2(二酸化炭素)削減にも貢献している。ボトルは100%再生PETを使用しているため、多少黒ずんで見えるが気にならない。
日本では虫が出たら当然のように殺虫スプレーを散布していたが、こちらでそれをやったらドイツ人の夫から「自分も死んでしまうからやめてくれ」と言われ、殺虫剤を買うのをやめた。以降、リンゴ酢に洗剤を一滴垂らしたものを殺虫剤代わりにしている。
そもそもドイツ人の多くが虫を殺さない。特に、自然界の循環に重要な役割を果たしているハチは、殺したら罰金。パン屋でハチがたかっていても、店員はなにもせず、すましたままだ。
広がるサステナブル商品
周囲を見渡せば、サステナビリティを意識したアイデア商品であふれており、楽しみながら地球にやさしい生活を送る人が増えている。
ドイツ人のクリスティーナさんは、娘にプラスチック製のおもちゃを一つも与えていないという。すべてが木製。「自然の手触りを赤ちゃんの頃から感じさせることで、プラスチックの違和感に気づいて成長してほしい」と話す。
近所の幼稚園では、トイレットペーパーの芯や牛乳パックなど、「紙ごみ」となるリサイクル可能な資源を持ち寄っておもちゃ工作をしている。各家庭から園に持ち寄ってもらうことで、自然とリサイクルの意識を身につけてほしいという狙いがあるそうだ。ちなみにお絵かきは、すべて不要となった紙の裏を使うという徹底ぶりだ。
知り合いのノエミさん(仮名)は、歯磨きにもこだわっている。
歯ブラシは竹製で、歯磨き粉も、容器含めて100%ナチュラル製の固形タブレット状のものを使用。プラスチックや水の使用量を減らしている。掃除や洗濯などのクリーニングも、ベーキングソーダ(重曹)やお酢を使ってやるようにしたので、余計なプラスチックボトルを買わなくてよくなったという。
クリーニングといえば、ドイツで最近ヒットしているのがお洒落なタブレット型のクリーナー「everdrop(エバードロップ)」。バス・窓ガラス・その他と用途別にわかれたタブレットをそれぞれ空容器に入れて水に混ぜて使う。製造工程でのCo2排出量も少なく、プラスチックごみの削減にもつながるということでユーザーが増えてきている。
また、エコ商品としてじわりとユーザーを増やしている一つが、持ち歩きできる携帯ウォッシュレットの「happypo(ハッピーポ)」。ドイツのメーカーは「トイレットペーパーよりも衛生的で、環境にもやさしい」と訴えかけており、Amazonでは4200件以上のレビュー中、88%が星4以上と高評価を得ている。
生理用品に関しても、ナプキンやタンポンに続く第三の生理用品ともいわれる「月経カップ」に注目が集まりつつある。洗って何度も繰り返し利用できる医療用シリコン製が多く、欧米では1990年代から市場に出回り始めた。
タンポンの長時間使用でも発症する急性疾患「トキシックショック症候群」の報告が月経カップでもわずかながらあるため、正しい使用方法を知る必要があるが、ごみを出さず、肌にもお財布にもよいということで、利用者を徐々に増やしている。日本でも、2017年に日本人に合わせた初の日本製月経カップ「ROSE CUP(ローズカップ)」が発売され、メディアなどを通じて徐々に認知度を高めているため、ご存知の方も多いかもしれない。
欧州では新たな参入が相次ぎ、例えばフィンランドで2005年に創業した「Lunette(ルネッテ)」や、ドイツで2009年に創業した「meluna(メルーナ)」などのブランドが知られている。ルネッテの調査によれば、サウナが欠かせないフィンランドでは、月経カップが12%までシェアを伸ばしているという。また、メルーナは、2014年に米国の保健当局FDAの承認を受け、2017年には日本でも輸入許可を受けるなど販路を世界に拡大している。
日本も「もったいない」精神でアイデアを
こう見ていくと、案外、日常の細かい部分までサステナビリティを追求できるということに気づく。家計の節約になるだけでなく、地球のためにもなるので、どこかウキウキ気持ちが明るくなる。そうして、「No waste, No plastic」にハマっていく人は多い。
消費者の変化を敏感に察知した企業も、さらにサステナビリティを意識した商品開発や企業経営へと傾倒していく。冒頭で、「消費者がサステナビリティに対して本気で取り組んでいるので、企業も対応せざるを得ない、というロジックもあると考えている」と指摘したが、単に消費者のニーズに向き合っているだけなのかもしれない。
例えば、包装に関して言えば、欧州の消費者は包装がないことをスタンダードとして受け入れているため、メーカーや小売店も消費者の意識の変化に合わせている、という側面もあるだろう。逆に、日本のメーカーや店舗は、消費者に慮って過剰包装から抜けられないでいる、という側面もあるのではないか。実際に、レジ袋有料化で文句を言うお客さんもいたと聞く。
しかし、日本人として生まれた筆者は悲観していない。「もったいない」という独特の言葉が存在する文化からわかるように、日本人はもともと、自然の恵みや、ものに対する感謝の気持ちがある。一度火がついたら、世界があっと驚くようなアイデアが次々と日本から生まれるような気がしてならない。
▷前回:サステナビリティ、欧州企業の本気度と日本との差 SDGs先進に学ぶ
▷シリーズ:欧州サステナビリティの風
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欧州在住の香料及びサステナビリティ専門家。神奈川県生まれ。2000年慶応義塾大学総合政策学部卒業。アクセンチュア、ロレアルを経て渡仏。フランスの化粧品香料大学院ISIPCA修了、仏調香師協会一員。世界最大の香料会社で様々なグローバル企業の香料や化粧品開発に携わる。2011年に独立、スイス拠点フレグランスコンサルティングのプラットフォームABTYSのパートナー。EUと日本を往復するうちに持続可能な社会への取り組みの差に違和感を感じ、2020年ケンブリッジ大学ビジネス・サステナビリティ・マネジメントコース修了。日本企業のサステナビリティ戦略のコンサルティングも手がける。現EU在住。