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特集:藤木流10代からの社会貢献

中高生に広がる社会貢献 SGC発足、学校の枠超えた教育支援へ(#4)

伏見 学

伏見 学
@manabu

高校生の社会貢献教育において、日本で先陣を切る東京学芸大学附属国際中等教育学校(TGUISS)。しかし、いまや同校だけでなく、中高生が社会貢献に関わる機会は確実に増えている。「特集:藤木流 10代からの社会貢献」の最終回は、そうした機運の高まりや具体的な広がりを追う。

「あなた自身はいま、平和ですか?」

 

これは今年3月に開かれたイベント「全国高校生SDGs選手権」の一コマ。広島県東広島市にある武田高校の生徒が、平和に対する考えを訴えかけるとともに、どのようにすれば一人ひとりの平和が連鎖していくかについてのアイデアを発表した。

 

「第1回全国高校生SDGs選手権」にて、平和をテーマにプレゼンテーションした武田高校

 

このイベントは、高校生がSDGs(持続可能な開発目標)をテーマに、自ら考案した事業や商品の企画をプレゼンテーションし、アイデアを競うもの。北海道から九州まで全国12校の生徒が参加。初開催にもかかわらず、反響は上々で、500人以上のオンライン視聴があった。

 

今まで日本では、社会貢献というと意識の高い、一握りの人たちが熱心に活動するという印象が強かった。ところが昨今、SDGsの浸透などを追い風に、ごく普通の人たち、とりわけ10代の若者にとっても、身近な存在になりつつある。

 

特集:藤木流 10代からの社会貢献」では、これまで3回に渡って、東京学芸大学附属国際中等教育学校(TGUISS)における藤木正史教諭の実践を紹介してきた。1年間のカリキュラムに基づく社会貢献教育は、国内で類を見ない取り組みといえよう。ただ、同校のようなスケールには及ばないものの、中高生が社会貢献に参画する機会は確実に増えている。

 

本特集の最終回では、高校生を中心とした若者のあいだにおける、社会貢献の浸透や広がりを追う。

 

急増する社会貢献イベント

 

冒頭の「全国高校生SDGs選手権」は、高校生が社会貢献をより具体的に学ぶ機会を創出しようと、教育事業の花形、菓子による企業ブランディングサービスのエスプライド、SDGs専門メディアを運営するマザーアースの3社が共催したイベントである。

 

文部科学省指定のスーパーグローバルハイスクールの学生や、SDGsをテーマに学校の授業で学ぶ高校生が出場し、それぞれの学校が企業とコラボレーションして、SDGsに絡めた企画を発表した。

 

優勝した武田高校は、SDGs目標の一つ「平和と公正をすべての人に」を実現するために、平和に対する思いを示すバッジ制作や、地元のプロバスケットチーム「広島ドラゴンフライズ」の試合会場で、来場者が折り鶴を作るプロジェクトなどを提案した。

 

広島ドラゴンフライズの浦伸嘉社長は、「来シーズンから必ず一緒に、提案の内容を遂行したい。この活動は今後にきっとつながる。自覚を持って取り組みたい」と意気込んだ。

 

このような、中高生を対象にした社会貢献イベントは、枚挙に暇がない。

 

「SB Student Ambassador全国大会」の様子(写真提供:Sustainable Brands Japan

昨年10月に東京と大阪、そしてオンラインで開かれた「SB Student Ambassador全国大会」。このイベントでは、92校667人の高校生を対象に、オピニオンリーダーによる「SDGs基礎講座」や講演、サステナブルな社会の実現に向けて、何ができるのかを議論するワークショップなどが行われた。この中から選抜された約40人の高校生が、今年2月に行われた「サステナブル・ブランド国際会議2021横浜」に出席した。

 

これとは別に、高校生の自主的な動きも見られた。駒場東邦高等学校の楜澤哲さんらが立ち上げた「社会問題解決プログラム」において、100人の高校生が海洋プラスチック問題の解決策を提案するために、グループワークやプレゼンなどを行った。ここで選ばれた3チームが、サステナブル・ブランド国際会議で発表する機会を与えられたのである。

 

高校生が海洋プラスチック問題の解決に取り組む(同プログラムのサイトより)

2カ月間で213万円の寄付を集めた中高生

 

企業も、若者への社会貢献の浸透に一役買っている。

 

社会貢献活動を啓蒙する⽇本フィランソロピー協会主催の「中高生によるチャリティームービープロジェクト」。新型コロナウイルスの影響で苦しむNPOを応援すべく、約70人の中高生が寄付や社会貢献活動についてオンラインで学び、各団体の魅力を伝える動画を制作した。

 

このプロジェクトのスポンサー(協賛企業)として、ブリヂストンジョンソン・エンド・ジョンソンジェーシービー(JCB)といったグローバル企業が名を連ねた。

 

中高生が熱っぽく支援を呼びかける動画を通じ、昨年11月から今年1月にかけて213万円を超える寄付が集まった。寄付金は、すぐさま応援先のNPOである、アスイク(仙台市)、移動支援Rera(宮城県石巻市)、ポラリス(宮城県山元町)、多摩草むらの会(東京都多摩市)、日本クリニクラウン協会(大阪市)の5団体に贈呈された。

 

このプロジェクトの協力企業からは「すでにこの取り組みで、中高生が社会の一部を支えてくれたと思う」「社会に起きていることを、自分ごとにしなければと、大人も学ばせてもらった」といった感想が寄せられた。


若者の活躍という点では、TGUISSの卒業生も負けていない。

 

第1回でも伝えたとおり、当時の最年少記録で准認定ファンドレイザーの資格を取得した横山彩乃さんは、大学時代に地域課題解決を推進するNPOで、被災地支援などに取り組んだ。

 

中学2年生のころから子ども向けプログラミングのワークショップを実施していた崔仁珠さんはいま、大学に通う傍ら、プログラミングを通じた日本と発展途上国とのネットワーク構築などに取り組んでいる。

 

こうした若者の活躍は今後、さらに大きなうねりとなるだろう。それを後押しするような動きも出てきた。


若者にソーシャルグッドを広める任意団体「SGC」を立ち上げ

 

今年4月19日、「若者のソーシャルアクション(社会貢献)を促す」ことを目的とした任意団体が立ち上がった。この仕掛け人こそが、藤木教諭だ。

 

社会貢献に対する機運が高まる中、藤木教諭らは前々から自身の活動の幅を広げることを模索していた。背景には、全国の子どもたちに社会貢献教育を広めたいという思いがあった。

 

これまでは学校教員という立場から、就業規定への懸念などもあり躊躇していた。しかし、ただ言っているだけではだめだという気持ちが日増しに強くなっていった。そんな折、同じ東京学芸大学系列の学校に勤める先生が任意団体を運営していることを知る。「じつは就業ルール上は問題なかったのです」と藤木教諭は笑う。

 

そうして4月、「ソーシャルグッドクリエイターズ(SGC)」という任意団体の立ち上げにこぎつけた。具体的には以下のビジョンとミッションを掲げる。これらを実現するべく、主に中高生に向けた社会貢献教育を提供したり、それを実践できる大人を育成したりする。

 

SGCのミッションとビジョン(団体のサイトより)

団体立ち上げのきっかけは2017年。日本ファンドレイジング協会主催のシンポジウムで、藤木教諭と同じ志を持つ、2人の盟友が出会い、意気投合した。

 

一人は、ワークショップデザインdescribe with代表の高橋優介氏。札幌市を拠点に活動する同氏は、企業や自治体に対してSDGsに関する研修やワークショップなどを行うほか、これまで全国約60校の中高生に「SDGsを知ろう」という授業を、「総合」や「探究」の科目の中で展開してきた。

 

もう一人が、京都市ユースサービス協会 チーフユースワーカーの米原裕太郎氏。同氏は、京都市ユースサービス協会の中で、若者の地域参加や自主活動の支援に取り組んでいる。サポートする対象は幅広く、居場所を求めている若者へのコミュニケーション支援や、貧困家庭の中学生の学習支援などにも力を入れる。そうした活動に加えて、学校などで社会貢献教育プログラムを実施している。

 

日本ファンドレイジング協会のシンポジウムに登壇する米原氏(左から2人目)と高橋氏(中央)(写真は2019年)

ここに、TGUISSの卒業生で、ソーシャルアクション部(ボランティア部)出身でもある、慶應義塾大学3年生の木暮里咲氏と、国際基督教大学1年生の工藤颯莉氏も、SGCの主要メンバーとしてジョインした。

 

SGCの代表を務める木暮氏は、高校時代に地域貢献活動の一環として、TGUISSがある東京都練馬区の魅力発信や課題解決ワークショップを企画、実施した。同様に、長野県上田市でも、現地のNPOや行政、企業、高校と連携してスタディーツアーを行った。また、毎年12月に行われる啓蒙キャンペーン「寄付月間」において、当時唯一の中高生団体として参加。彼女が責任者として手がけた若者向け寄付啓発イベントが2017年の大賞を受賞した。それが縁で、現在も寄付月間の事務局を担当している。

 

工藤氏は、本特集でも何度か触れたように、グラフィックレコーディングの専門スキルを武器に、高校の授業にとどまらず、学外のイベントでも、グラフィックレコーダーとして活躍してきた。


孤軍奮闘からの解放


藤木教諭、高橋氏、米原氏の3人とも、社会貢献分野における「若者育成」という共通の問題意識を持ち、各自がそれぞれできることに取り組んできた。が、一人でできることに限界も感じていた。そのときの心境を高橋氏はこう振り返る。

 

「アクションしている、しようとしている組織や個人はいるのですが、点でしかありませんでした。加えて、北海道は、町と町の物理的な距離もあって仲間を見つけにくかったです。孤立感があり、自分たちのアクションが社会へどのようにインパクトを生んでいるのかわからない状況でした」

 

米原氏も「関西では、社会貢献について中高生に教えられる人間はほとんどいませんでした。私もよく京都から兵庫県小野市の高校まで、片道2時間半ほどかけて通いました。とても大変でした」と吐露する。

 

けれども、同志がいることで、活動の幅は広がるし、補い合うこともできる。何よりも孤軍奮闘という不安から解放されることが大きかった。

 

最初に3人が出会ったときは、「一緒に何かできたらいいよね」と語っただけで終わり、特にアクションがないまま1年が過ぎた。再びシンポジウムで一緒になった際、「まずは研究会から始めてみよう」となり、具体的にプロジェクトが動き出した。

 

当時はオンラインでのミーティングはまだ一般的ではなく、北海道に住む高橋氏と、京都で暮らす米原氏、そして東京にいる藤木教諭が会うのは年に数回。そのタイミングを使い、7〜8人ほどを集めた研究会を都内で実施した。

 

2018年、藤木教諭らは社会貢献教育をテーマにした研究会をスタートした

初回は、先のシンポジウムで行われた社会貢献教育セッションの登壇者が集まり、実践事例などの発表内容を中心に、それぞれがアクションしていることを深掘りした。2回目は、大手クラウドファンディング企業のコーディネーターを招き、当時はまだ日本で発展途上だったクラウドファンディングについて学んだ。

 

こうして、細々とだが、着実に活動を形にしていった。


コロナ禍が追い風に

 

団体設立の構想が具体化したのは昨年2月。米原氏はこう振り返る。

 

「READYFORのオフィスへ訪れた後、半蔵門のインド料理屋で食事しながら、熱く語り合ったんです。そのときに初めて『団体を作る』という言葉が出ました」

 

ついに、本格的に動き出した矢先、新型コロナウイルスが発生した。ただし、彼らにとっては結果的にこれが追い風となった。物理的な移動や対面が困難になったことで、オンラインでのコミュニケーションが活発になり、構想実現に向けて一気に前進した。

 

今まで以上に対話を重ねる中で迎えた昨年9月のシンポジウムでは、セッション後に「次世代をエンパワメントする社会貢献教育」と題したギャザリングを実施。教職員や企業のCSR担当、社会福祉関係者など60〜70人が集まった。

 

ギャザリングでは、「あなたはソーシャルアクションを通して、子ども・若者にどのような『力』『スキル』『考え方』『姿勢』が身につくと思いますか」という内容について意見交換したが、参加者も皆、話し足りない様子だったため、後日オンラインで続きを行なうこととなった。

 

これをきっかけに、ギャザリングの参加者も巻き込んで、毎月開催のオンライン研究会を立ち上げた。例えば、今年2月に開かれた「コロナ禍での団体の苦労と取り組みを知ろう」というテーマの研究会には、10人ほどが参加。日本フィランソロピー協会の青木高事務局長をゲストに招き、同協会が例年行っていたチャリティーマラソンを、オンラインのムービープロジェクトに変更せざるを得なかった苦労や、その中で創意工夫したことなどを話してもらい、全員でディスカッションした。


社会貢献のプラットフォーマーに

 

SGCとして、今後も研究会を定期開催し、参加メンバー同士のつながり強化や、新規メンバー獲得などを目指していく。「年内には、TGUISSでの授業のショートバージョンとして、全国の中高生に向けた社会貢献授業をオンラインで実施したい」と藤木教諭は展望を語る。

 

そのほかにも、大人向けの社会貢献ワークショップや、社会貢献活動のトレンドなどを伝える冊子作りなどを計画する。

 

「運営メンバーも参加者も、一人ひとりやりたいことは違います。けれども、根っこの部分で『ソーシャルアクションは大事だよね』という共通認識を持っています。このように、社会貢献に関わる人たち、ソーシャルグッドを生み出す人たちを次々と輩出できるようなプラットフォームになりたい」(藤木教諭)

 

本特集第1回で紹介したように、寄付額だけを見れば、日本は欧米と肩を並べるレベルではない。一足飛びにそこまでいくこともできない。時間をかけて寄付活動が根付くための文化を作ることが不可欠である。

 

しかし、日本でも社会貢献に対する意識は高まってきていることは間違いない。そうした中で、藤木教諭をはじめ、この分野で長らく奮闘してきた先人たちの努力はきっと実を結ぶことだろう。そのとき、日本はもっと精神的に豊かな国になるはずだ。

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伏見 学

伏見 学 @manabu

地方の企業、行政、地域活性化などの取材を通じた専門性を生かし、「地方創生の推進」に取り組む。1979年生まれ。神奈川県出身。慶應義塾大学環境情報学部卒業、同大学院政策・メディア研究科修了。ニュースサイト「ITmedia」、フリーランスを経て、現在に至る。 |伏見学(ふしみ・まなぶ)

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