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シリーズ「エシカル探偵団」の第1弾として、就活ランキングの上位企業を中心とした人気企業50社の「ジェンダー平等調査」を実施した。調査を担当したZ世代の学生団体「スキカッテ」のメンバーが企業への思いやホンネを語る。

Renewsと学生団体「スキカッテ」が企業の「ジェンダー平等調査」を共同で実施した。調査対象や手法の詳細、企業のジェンダー平等に関する「取り組みや制度」の評価結果は、こちらの記事をご覧いただきたい。また、興味深い分析結果が出た「表現調査」については、調査報道サイト「SlowNews(スローニュース)」で詳細をレポートしている。

 

 

調査を担当したのは、社会貢献やNPOについての情報を発信する学生団体「スキカッテ」のメンバー。飯塚遼馬、ワンバ愛笑里(めえり)、工藤颯莉(そより)の3人だ。いずれも東京学芸大学附属国際中等教育学校の同級生であり、同校を2021年3月に卒業したばかりのZ世代。高校時代から社会課題への関心が高かったという。

 

今回、人気企業50社のジェンダー平等に関する取り組みや制度を隈なく調べ、評価した3人は、調査の過程でなにを感じたのか。調査を終えてなにを思うのか。10代のリアルな“ホンネ”を座談会形式でお届けする。(Renews編集部)

 


 

「マジか…」求めるレベルに達していない驚き

 

—— 今回、人気企業50社のジェンダー平等について一斉に調査してもらいました。まずは、このプロジェクトに参加してみての感想や雑感をお聞かせください。

 

飯塚遼馬(写真:スキカッテ)

飯塚遼馬 データ収集や調査は思ったよりも難しかったですし、常に悩みながら進めましたが、終わってみれば「おもしろかった」というのが一番の感想です。

今までは、ジェンダー格差(ジェンダーギャップ)や性的マイノリティ(LGBTQ)の問題などをぼんやりと、ざっくりとでしか、見ることができていなかった。ですが、今回の調査を通して見えてきたというか、実感として捉えることができ始めているなという感覚が自分の中ではあって。

ニュースを見ていても、「ああ、ジェンダーだ」と反応するようになって、身近な問題だと感じるようになりました。そういう自分の変化も含めて、楽しかったし、おもしろかったというのが率直なところです。

 

—— 女性の工藤さんはどうですか?

 

工藤颯莉(そより) 楽しかったというのもありますが、それ以上に、感情としては「驚き」のほうが大きかったです。私が培ってきたジェンダー観というのは、今回調査をした学生に人気の企業、社会に広く影響を与える大企業にとっては普通ではない、ということに気付かされました。

 

例えば、各企業のジェンダーに関する取り組みや制度を「✕△◯」の3段階で評価していったのですが、「この項目はどの企業もクリアしてほしい」と思う項目が、どの企業も✕ばかりだったり。「ああ、マジか…。こんな感じなのか…」という連続で。そういうことも含めて、驚きが大きかったという印象が強いです。

 

「書いてないって、あり得るの?」

 

—— 思っていたよりも人気企業のジェンダー平等への意識が低かった、という驚きがあったということですね。同じく女性のワンバさんはどういった所感ですか?

 

ワンバ愛笑里(めえり) 私も驚きが大きくて。女性活躍やジェンダー平等に関する情報を、いろいろな企業のウェブサイトの隅々まで調査したのですが、中には、女性活躍やジェンダー平等について、なにも書いていない、なにも言っていない、という企業もありまして。

 

富士通とかファーストリテイリング(ファストリ)とか、ジェンダー平等に対する指針をすごく丁寧にウェブサイトで公開している企業もたくさんありました。だからこそ、なにも言及がないことへの衝撃がすごかったです。「えっ?マジか」「そんなこと、あり得るの?」みたいな。

 

そういう企業を見つけたときは、「みんなも調べてみて」と共有して、みんなでパニックになりました(笑)。

 

工藤 そうそう。書いていない、ということが、本当に信じられなくて。「えっ、これは私のパソコンが悪いのかな」とか「検索の仕方を間違ったのかな?」とか言い合って。

 

飯塚 1社目にそういう企業が出てきたとき、本当にパニクったよね、僕ら。それは、大手メディア企業だったんですが、ワンバから「私が間違っているかもしれないから、2人も検索してもらえる?」と言われて。それで僕と工藤も調べて、「いや、ないぞ」「何回検索しても、やっぱりないよね」となって。

 

ワンバ 自社の女性活躍やジェンダー平等についての方針を書いていない企業も存在し得る、という新しい認識が生まれた瞬間でした。

 

—— そういう衝撃は、調査結果を眺めてもなかなか伝わってこないので、参考になります。調査を終えて、企業の見方が変わったなど、皆さんの中で意識の変化はありましたか?

 

工藤颯莉(写真:スキカッテ)

工藤 イチ就活生としても、イチ消費者としても、企業を見るときに、ジェンダー平等の観点がより強くなったと感じています。

同時に、これはジェンダーに限らず、環境配慮やサステナビリティへの取り組みなど、いわゆるCSR(企業の社会的責任)全般に言えるのですが、企業のウェブサイトをぱっと見て、「ああ、やっているな」と思って終わりにしなくなった。

どんな言葉でどんな思いを綴っているのか、実際にどんな取り組みをしているのかなど、ちゃんと深いところまで意識して見るようになりました。


“エクストリーム”なジェンダー論と、本当の叫び

 

飯塚 僕は、すごく個人的な思いになりますが、やっぱりジェンダーって、女性の方が強い声を上げることが多い印象でして。最近は、それがけっこう行き過ぎていて、「そこまで言わなくても…」と感じることも増えていました。

 

例えば、ファミリーマートの惣菜ブランドである「お母さん食堂」というネーミングが、ジェンダー平等の観点でよろしくない、という風潮がSNSなどで盛り上がったことがありましたよね。でも、べつにファミリーマートとしては「お母さんがご飯を作る」という差別のイメージを植え付けたかったわけじゃないと思うんです。

 

—— 「おふくろの味」を表現したかっただけだと思います。

 

飯塚 そうです。ああいうのが、僕はちょっとモヤモヤして。そこまで噛みつかれてしまうと、なにかすごく苦しい社会になっちゃうなと思っていて。

 

でも、今回、実際に企業のジェンダー平等への取り組みを調べてみて、やっぱりまだ、男女格差やLGBTQに対するある種の偏見や差別みたいなものは取り払われていないと感じましたし、取り組みや制度も全然、追いついていないという「現実」を突きつけられました。

 

それは納得いかないですし、男性目線で見ても、僕は子育てもちゃんとやりたいと思うので、男性の育休制度がない企業があると「なんでやねん!」みたいな。

 

同世代は、僕と同じ感覚を持っている男性も多いはず。僕たちが変えていかなくちゃいけない。僕たちが思う当たり前の世の中にしていかなくてはいけない。改めて、そう感じました。

 

—— 飯塚さんが言ったような、先鋭化した“エクストリーム”なジェンダー論が、ネットでの対立や炎上を引き起こすことが増えています。派手なので、どうしてもクローズアップされるし、マスコミやメディアもそちらを報道しがちになる。そのぶん、ジェンダー問題の本質が薄れ、見えにくくなってしまっている傾向にあると思います。

 

飯塚 そのエクストリームなものと、純粋に本当に問題で叫びを上げているものが、今、社会の中でジェンダーに限らず入り交じっていると思っていて。後者の本当の叫びを、どうちゃんと区別して拾い上げるのか、というのはすごく大きな課題だと思います。

 

そこは、今回のジェンダー平等調査で「取り組みや制度」の評価をやったことで、一つの解決策としてしっくりきた。人々がジェンダー問題の本質を見極める上での参考や手助けにしてもらえたらいいなと、めちゃくちゃ思いました。

 

富士通・ファーストリテイリング、好印象のワケ

 

—— 「取り組みや制度」の評価において、就活ランキング上位企業(「2022年卒版就職企業人気ランキング」の文系理系上位25社、重複除く計41社)で最も高いポイントだったのが富士通でした。どのあたりが良かったですか?

 

ワンバ 富士通は私が中心となって調査・評価をしたのですが、私たちが策定した評価基準の15項目で、全般的にポイントを得ていました。中でも印象に残ったのは、新卒採用のページに、ジェンダー平等への取り組みをしっかりと書いていたことです。

 

▼独自の評価基準項目
行動宣言 会社としてジェンダー平等に関する指針を明文化し、HPやリクルートサイトなどで社内外に広く公開している
採用方針として学生に伝えている
男女平等だけでなくLGBTQなどあらゆるジェンダーに対する言及をしている
女性活躍推進法への呼応としてだけでなく、ジェンダー平等に対する指針として表現に会社独自の工夫をしている
当事者コミュニティ 社内のコミュニティ(女性社員のネットワーク等)がある
無記名の意識調査(従業員意識調査やエンゲージメント調査等)で女性社員の意見も統計的に把握できるようにしている
啓発活動 管理職あるいは従業員への研修を実施している
社内での情報共有をはかるインターネット上でのプラットフォームがある
人事制度 女性社員の休暇・休職(結婚、育児、介護など)
男性社員の休暇・休職(同上)
事業内託児所を設置している
育児フレックスや時間短縮制度がある
社会貢献・渉外活動 男女平等を促進するための活動・イベントの主催を行っている
男女平等を促進するための学生向けの就職説明会、セミナー、イベントの主催を行っている
男女平等関連イベントへの社員参加の呼びかけおよびイベントの周知をしている

 

他の企業では、ジェンダー平等に関する話題はCSRのページなどにまとめて書かかれてあって、採用ページに言及があった企業はものすごく少数でした。私が主に担当した企業では富士通のみです。

 

しかも、LGBTQも含めて、けっこうなボリュームでジェンダー平等への取り組みや制度が詳しく紹介されていたので、「あっ、すごいな」と思いましたし、どんどん情報が拾えたので、調査をしていて楽しかったです。

 

▼ジェンダーに関する「取り組みや制度」の評価
就活人気ランキング41社中10位(12社)まで
順位 社名 行動宣言 当事者コミュニティ 啓発活動 人事制度 社会貢献
・渉外活動
総合点
1 富士通 8 4 2 8 4 26
2 本田技研工業 6 0 4 8 4 22
3 資生堂 8 1 2 6 4 21
3 三菱UFJ銀行 6 0 4 7 4 21
5 ファーストリテイリング 8 2 2 6 2 20
6 NTTデータ 5 0 2 8 4 19
6 キヤノン 6 1 2 6 4 19
8 ソニーグループ 6 2 2 4 4 18
8 ソニーミュージックグループ 4 2 2 4 6 18
10 JCB 3 0 4 8 2 17
10 日本生命保険 8 0 2 4 3 17
10 森永乳業 5 2 2 6 2 17

 

—— ファストリは「取り組みや制度」の評価で20ポイント、5位ですが、先ほども印象が良い企業として名前を挙げていました。こちらはどうですか?

 

ワンバ 取り組みや制度を評価するときに私が主に担当したのですが、個人的に印象がすごく変わりました。ジェンダー平等への取り組みを紹介するページの写真やデザインなどからハッピーそうなイメージが伝わってきたというのもあって、全体的に好印象でした。ほかの企業とは、伝え方や表現の部分が全然、違うなという感じです。

 

余談ですが、ユニクロで働いている友だちがいるので、「どんな感じなの?」と話を聞くと、実際に楽しいみたいで。私もユニクロでバイトをしたいなと思うようになりましたし、もしかしたら数年後、新卒採用に応募しているかもしれません(笑)。


表現はもっと重視されるべき

 

—— 今回は、「取り組みや制度」の評価と同時に、ジェンダー平等に関する「表現」にも着目するという新しい試みにも挑みました。主に「女性活躍」という表現を多用するグループと、「ジェンダー平等、ジェンダーギャップ」などの表現を多用するグループに分けることができ、それぞれのグループの傾向を見ていったわけですが、やってみてどうでしたか?

 

ワンバ愛笑里(写真:スキカッテ)

ワンバ これまでは、「表現」の違いを意識してウェブサイトを見たことがなかったのですが、今回のように横並びで比較してみるのはおもしろいなと思いました。

例えば「障がい者雇用」などほかのジェンダー以外の社会課題に関する表現にも注目してみたら、また別の発見があるのかなと興味が湧いています。

飯塚 その障がい者の「がい」についてですが、小学校5年の頃、サッカー部の顧問の先生に「害という漢字を使うことで誰かを傷つけてしまったり、誤解を招いたりする恐れがあるので、ひらがなのほうがいいんじゃないかな」と指摘されたのがすごく印象的で。

以来、PCなどで打つときに、漢字で変換されちゃうのをひらがなに打ち直していますし、ほかの単語も含めて、表現や言葉遣いを気にしてきました。僕たちが「スキカッテ」のミッションやビジョンを作るときも、サイトをリリースする際も、どの言葉がいいんだろうとすごく考えて悩んで選択してきたつもりです。

 

企業の皆さんこそ、慎重に言葉を選んで表現に気を遣っているはず。表現の選択の違いによって企業間の優劣はあまり出ないのではと思っていましたが、蓋を開けてみれば、「あれっ、そんなことないぞ」と。大企業なんだから、そこはちゃんと考えて気を遣ってよ、と思いました。

 

工藤 私も、飯塚と同じく、すごく言葉にはセンシティブで、表現や言葉の選択が大事だと思っていて。大学でも、いろいろな会話やメディアで使われる言葉の背景にどういう意図やイデオロギーがあるのかを研究する「談話分析」に取り組んでいます。だからこそ、今回のジェンダー平等調査でも、表現に着目するというテーマにはすごく興味がありました。


「『女性活躍』は意識が低い?」疑っていた仮説

 

—— 詳細は省きますが、「女性活躍」を多用するグループは女性管理職/役員比率や、「取り組みや制度」の評価ポイントが低い傾向にあり、逆に「ジェンダー」を多用するグループは高い傾向にある、という興味深い分析結果が出ました。

 

 

▼ジェンダーに関する表現ごとのグループ分けと定義

Aグループ
(女性活躍のみ)
「女性活躍」という表現に終始
企業名 講談社、東日本旅客鉄道、集英社、明治ホールディングス、キヤノン、カゴメ、東海旅客鉄道、Sky、ロッテ、ニチレイグループ、森永乳業、日本調剤
Bグループ
(女性活躍優勢)
「ジェンダー」も使うが、「女性活躍」やそれに類する表現を積極的に使用、もしくは相対的に頻出
企業名 第一生命保険、伊藤忠商事、サントリーグループ、トヨタ自動車、ソニーグループ、NTTデータ、パナソニック、日立製作所、本田技研工業、三菱UFJ銀行
Cグループ
(ジェンダー優勢)
「女性活躍」も使うが、「ジェンダー」やそれに類する表現を積極的に使用、もしくは相対的に頻出
企業名 東京海上日動火災保険、味の素、損害保険ジャパン、日本生命保険、ファーストリテイリング、オリエンタルランド、イオングループ、資生堂、富士通、花王

 

工藤 調査の過程で、「『女性活躍』という表現はどうなんだ?」「意識の高い企業は、その表現をするだろうか?」という印象を抱くようになり、「表現とアクションに相関性があるのでは?」という仮説へとつながっていきました。

 

反面、私は「本当にそうなのかな」と疑っていたところもあります。単なる言葉の表現がそこまで結果に影響するのだろうか、恣意的な検証になっているんじゃないか、という不安がありまして。

 

あと、さっき話していたようなエクストリームなジェンダー論や、それへの批判が高まってきているなか、「言葉狩り」じゃないですけれど、私たちの調査コンテンツがそう捉えられたら嫌だなというのもありました。

 

だからこそ、丁寧に、ロジカルに示す必要があると感じて、慎重に検証作業を進めた結果、仮説を裏付けるデータが出てきて。本当にそうだったと、ストンと腑に落ちる結果となったのは、個人的にうれしかったです。

 

拾えきれなかった「その他」の表現

 

—— 今回は、主に「女性活躍」「ジェンダー」という表現が大多数を占めていたので、そこに着目して調査分析を進めていきましたが、それ以外の表現で印象に残っている企業があったら、ぜひ紹介してください。

 

飯塚 僕は、サントリーの従業員を指す「多彩なサントリアン」という表現がすごく好きで、秀逸だなと思いました。「女性活躍」という言葉も使ってはいて、「女性活躍優勢」のグループだったんですけれど、それ以外の表現も模索しているのかなと。考えて言葉を使っている印象でした。

 

サントリーの「取り組みや制度」の評価点は、そこまで伸びなかったのですが、実際に内部が変わって結果が出るまで、多少のラグはあるので、もしかしたら今後、表現が大きく変わっていくかもしれないし、評価も上がっていくんじゃないかなと思いました。

 

—— 工藤さんやワンバさんは、どうですか?

 

工藤 私が主に担当した会社だと、トヨタ自動車は、「女性活躍優勢」グループではありましたが、「ジェンダーの価値」についてすごく丁寧な言い回しをしていたのが、印象的でした。

 

あと、イオングループはダイバシティーの「ダイ」を取って、「ダイ満足」という言葉を使っていて。従業員や消費者に、ダイバーシティーの観点でも満足いただけるような働き方やプロダクトを出していきますというメッセージです。

 

「多彩なサントリアン」と同じような感じで、表現に気を遣い出しているということは、ジェンダー平等の本質にも意識が向き始めているのかなと。熟し始めているところで、今後もっと良くなっていくのではないかと思いました。

 

「人を感動させる企業なのに…」

 

—— 今回の表現調査では、「女性活躍」「ジェンダー平等/ジェンダーギャップ」以外のマイナーな表現を分析に落とし込めなかったので、この座談会で補足してもらえたのは良かったです。一方、「表現なし」というその他グループも。そういった企業へ、どういう印象を抱きましたか?

 

Dグループ
(その他・ダイバーシティなど)
「女性活躍」「ジェンダー」を使わず、「ダイバーシティ」などその他の表現を使用
企業名 ニトリ、バンダイ、ミリアルリゾートホテルズ、キユーピー
Eグループ
(その他・表現なし)
ジェンダーに関する具体表現がない
企業名 ソニーミュージックグループ、JCB、バンダイナムコエンターテインメント、ポニーキャニオン、山崎製パン

 

飯塚 僕はエンターテイメントがすごく好きなので、日本を背負って立つエンターテイメント企業が「表現なし」のグループにいたのは、ちょっとショックでした。

 

人を楽しませたり感動させたりすることを生業として価値を提供している人たちなのに、ジェンダー平等のことになると、表現に気を配れないどころか、表現すらしていないというのは、どうなんだろうと。それで本当に感動を与えるエンターテイメントを作れるのかと思いました。

 

ワンバ 私は、直接「表現」のことではないのですが、その他のグループ、とくに「表現なし」のEグループは、女性管理職/役員比率を公開していない企業が多かったんですね。やっぱり、都合の悪いところを隠しているような印象を受けてしまって。いやいや、それでも公開してよと。少し悲しい気持ちになりました。

 

▼グループごとの女性管理職/役員比率の開示率と非公開企業
  開示率
女性管理職
開示率
女性役員
非公開企業
(管理職・役員のいずれか、または両方)
Aグループ 84% 75% 講談社、東海旅客鉄道、集英社
Bグループ 100% 100% なし
Cグループ 100% 100% なし
Dグループ 75% 100% ミリアルリゾートホテルズ
Eグループ 40% 40% ソニーミュージックグループ、JCB、ポニーキャニオン

 

表現は思考の表れ

 

—— 今回、「『ジェンダー』という表現を選択する、企業はジェンダー平等が進んでいる」という仮説が、ある一定の事実をもって証明されました。なぜそういう傾向になるのかという考察について、これは推測になるかもしれませんが、皆さんの考えをお聞かせください。

 

飯塚 「女性活躍」という表現を使う人は比較的、年配の男性。一方で「ジェンダー」という表現を使う人は若い人とか女性が多いのかなというイメージがあります。

 

つまり、ジェンダーという表現を多用する会社は、ジェンダー平等のプロジェクトに、入社数年内の若手や女性が多く関わっているのかなと。あるいは、若手や女性の声や意見がちゃんと上層部まで吸い上げられているからこそ、そうなっているのではないかという気がします。

 

工藤 飯塚はすごくリアルな視点で言ってくれたと思いますが、私はもうちょっと概念的な感じで話すと、ジェンダー平等に対する姿勢や思考が、ウェブサイトに出てくる表現に表れてしまっているのではないかと考えます。表現調査のレポート記事でも触れた、「表現は思考の表れ」ということです。

 

2014年10月、安倍前首相は「すべての女性が輝く社会づくり本部」を設置。翌15年9月、要となる法律「女性活躍推進法」が施行された(写真:首相官邸

もともと私は、日本の「女性活躍推進法」という法律が、日本企業の「女性活躍」という表現や取り組みへの思考を停止させてしまっているのではないか、という仮説を持っていました。

 

政府がこの言葉を使っているから、我が社もその言葉を使う。政府がこういう指針を示しているから、我が社もこれをする。というように、よく考えず、作業的に選択してしまっている会社もあるのではないのかなと。

 

「女性活躍」と表現するにしても、政府の文言を鵜呑みにせずに、「その言葉にはどんな意味があるのかな」とか「男性の基準に女性を合わせるというニュアンスが含まれているよね」とか、いったん咀嚼(そしゃく)して、本当にこの言葉でいいのかを考える必要があると思うんですね。

 

取り組みについても、この制度や活動で本当に「女性活躍」を実現できていると言えるのか、と立ち止まって再考する時間を持つべきだと思うんです。それができているか否かが、今回の分析結果の背景にあるのではないかと考えます。


「見せかけのエシカルを暴きたい」

 

—— 鋭い視点をありがとうございます。そろそろ、まとめていきたいと思います。やり残したことなど今後につながるような話、あるいは言い残したことがあれば、お願いします。

 

飯塚 僕は唯一の男性ということもあって、最初はどうなるんだろう、どう向き合っていったらいいんだろう、というところから始まりましたが、やってみて、すごくためになったと同時に、調査がカタチになって誰かに届くというのはうれしいものだな、と率直に思っています。

 

やり残したのは、本当に効果的かどうか、という部分ですね。ジェンダー平等に関する制度や取り組みについて、あるかないか、充実しているかどうかという視点で評価をしましたが、それらが本当に機能しているのか、規模はどのくらいなのか、なども含めて評価すれば、また結果は変わってくると思います。

 

ウェブサイトでの調査は限界があるので、機会があれば、企業や働いている人の声をちゃんと拾ってみたいです。

 

工藤 私も、企業の中の人に聞いてみないとわからないところが多いと感じています。数カ月かけて、私たちなりに必死に調査に取り組みましたが、それでも今回の調査方法では見えてこない、拾いきれていない部分が、きっとたくさんあると思います。

 

例えば、今回、「表現なし」で評価できない、となってしまったところでも、ウェブサイトに掲げていないだけで、実際は取り組みや制度があるのかもしれません。だとしても、就活を控えた学生や消費者に向けてアピールできていないので、もったいないのですが。

 

企業に対して言いたいのは、まずジェンダー平等に関する指針や取り組みを伝えてほしい。次に、その言い方を考えてほしい、というのがあって。そこをちゃんと聞くためにも、インタビューみたいな形で実際のところを現場の方に伺う機会があればいいなと思っています。

 

この調査は夏休みの大きな自由研究みたいなものだったなと思っていて。調べてみて、一つひとつ、見えてくるものがあって、それがまたさらなる興味につながっていくのが、私の中ですごく楽しかったです。この「エシカル探偵団」が、これからの学生みんなの将来にも役立つものに発展していってくれたらうれしいです。

 

ワンバ 私たちは「見せかけのエシカルを暴きたい」という思いを根本に抱いていました。今回、実際にジェンダー平等というテーマで、日頃からぼんやりと抱いていた疑問や違和感を解消できたのはすごく貴重で良い経験だったなと思っています。

 

同時に、エシカルな視点をもって、ジェンダーに限らずほかの分野もどんどん調査をしていけたらいいなと。ジェンダー平等でも、LGBTQへの配慮をもっと調べてみたいですし、ほかにも、障がい者雇用や環境問題への配慮はどうなっているのかとか、いろいろと気になります。

 

企業がエシカルに対して、もっと高い視座や意識で取り組んでくれるように。そして、私たち、若い世代の存在をもっと意識してもらえるようになるきっかけになるような“探偵団”になっていきたいと思いました。

 

本稿の調査内容に関して、不備や誤りがありましたら、こちらまでご連絡ください。再調査のうえ、訂正・修正すべきものがあれば対応させていただきます。
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飯塚 遼馬

飯塚 遼馬 @iichannz

2002年生まれ。東京学芸大学附属国際中等教育学校在学中に、eスポーツ系のスタートアップ「RATEL」で自社大会の運営代表を経験。高校卒業後、同級生と学生団体「スキカッテ」を設立。現在は社会貢献に取り組みながら、「inochi WAKAZO project 2021 WAKAZO」副代表を務めるなど、誰もがいのち輝く未来社会の実現に向けて奮闘中。 |飯塚遼馬(いいづか・りょうま)
ワンバ 愛笑里

ワンバ 愛笑里 @mary_nwmb

上智大学総合グローバル学部1年。ナイジェリア人の父と日本人の母をもつ。過去何度も訪れたことのあるナイジェリアでの経験や、東京学芸大学附属国際中等教育学校在学中での経験から社会貢献について興味を持ち、同級生と共に学生団体「スキカッテ」を設立。現在は上智大学にて国際協力やアフリカ研究について学ぶ。 |ワンバ愛笑里
工藤 颯莉

工藤 颯莉 @soyorikudo

2003年生まれ。東京学芸大学附属国際中等教育学校在学中に、ソーシャルアクションチームにて地方創生イベントの企画・実施や活動資金調達のためのファンドレイジング活動を行う。またグラフィックレコーディングを独学し、これまで50件を超えるイベント・会議の依頼を受けている。2021年に国際基督教大学に入学し、学生団体「スキカッテ」や「Social Good Creaters」の設立メンバーとして、同世代の若者の興味や挑戦を応援する活動に取り組んでいる。

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